食生活の見直し

ファイトケミカルが今、
なぜ注目されているか

津志田 藤二郎 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
食品機能性研究 センター長/食品総合研究所
食品機能研究領域長 津志田 藤二郎

野菜や果物などの植物が持つ化学成分がファイトケミカルです。近年、このファイトケミカルの抗酸化力などが、生体調節機能に深く関わっているとしてクローズアップされています。また、ファイトケミカルの抗酸化力を数値化して示そうという動きも出てきました。ファイトケミカルをとりまく動向について、食品機能性研究センターのセンター長であり、食品の抗酸化力に対する統一指標の確立を目指すAntioxidant Unit研究会の常務理事も務めておられる津志田藤二郎先生にお聞きしました。


ファイトケミカルが持つ抗酸化性が注目されている


■ファイトケミカルという言葉を最近よく耳にしますが、これはどのようなものでしょうか。
 ファイトケミカルの“phyto”は植物、“chemical”は化学成分という意味ですから、植物由来の化学成分ということになります。野菜や果物にはビタミンやミネラルといった栄養素、食物繊維が含まれますが、それ以外の、例えばポリフェノールのような「非栄養素」も身体の健康維持・増進に役立つ作用を持つことがわかり、それらを含めて現在ではファイトケミカルと呼ぶようになってきました。栄養素は欠乏すると生命を維持できない物質と定義されますが、ビタミンCやビタミンEのように栄養素であっても本来の栄養素的な役割とは異なる生体調節機能を示すものもあります。つまりファイトケミカルの中にもある種の栄養素が含まれると言えます。

■ファイトケミカルのうち、どのような成分が特に注目されているのでしょうか。
 まずポリフェノールやカロテノイドといった抗酸化物質、そして大根やわさびなどの辛み成分であるイソチオシアネートなどですね。ファイトケミカルの機能として最も重要なものは抗酸化性で、ほとんどの成分が抗酸化性を示します。 生物は酸素中で生活していますから、鉄が錆びるのと同じで放っておけば酸化という過程を経て朽ち果てていく流れに置かれています。それを還元する状態に持っていく、つまり酸化を防ぐ方向に持っていくことが、すなわち生命を維持するということです。私たちは様々な食品を食べて生命を維持していますが、それはすなわち還元状態を身体の中につくるということだとも言えます。

抗酸化物質は第七の栄養素

ファイトケミカル図

■いろいろな病気も酸化が関係していると言われていますね。
 がんや老人性認知障害、生活習慣病なども酸化を促進する“活性酸素”と何らかの因果関係があると言われています。活性酸素による遺伝子の傷害や、たんぱく質の酸化による機能喪失、あるいは脂質の酸化による過酸化物の生成など、酸化によって生命維持にそぐわない状態がもたらされているわけです。そこで、日常的に抗酸化物質を摂取することが大切ではないかという考え方が出てきました。

主なファイトケミカルには、どのようなものがあるか

■ポリフェノールやカロテノイドが抗酸化物質の代表ということですね。
 ポリフェノールは、お茶などに含まれるカテキンや、赤ワインやブルーベリーなどのアントシアニンなどが代表的ですが、嗜好品として摂られているものが多く、世界各地で古くから体験的に健康に寄与することが知られていたのかもしれません。私個人としても、ポリフェノールに関する研究には非常に興味があります。  カロテノイドには、緑黄色野菜に多いβ?カロテンや、トマトなどに含まれるリコペンなどがあります。カロテノイドは脂溶性の抗酸化物質で、水溶性の抗酸化物質であるポリフェノールと1セットになって身体の中で役割を果たしている、つまり脂溶性成分と水溶性成分の両方をバランスよく摂取することが不可欠だと考えられます。またβカロテンの介入試験では、単独の成分を高用量摂取しても発がん抑制に効果がなかった、あるいは逆に喫煙者の場合は肺がんリスクが高まったという報告があります。このようなことからも、単一成分だけを摂取するのではなく、普通の食事のように様々な成分を一緒に摂取することが重要なのではないかと思います。

■イソチオシアネートはどのような作用を持つのでしょうか。
 イソチオシアネートは大根やわさびなどの辛み成分で、抗酸化性というよりも、肝臓や消化管での解毒酵素を活性化することが大きな特徴です。つまり体内の様々な危険な物質を代謝して排泄する作用を持つわけです。これは生体の免疫系とは異なる抵抗性ですから、かなり興味深い機能だと思いますね。

■乳酸菌とファイトケミカルの相乗効果のようなものは期待できるのでしょうか。
 乳酸菌は腸管内の細胞に作用して免疫増強機能を発揮すると思いますが、ファイトケミカルは体内に吸収されてから働くものです。両者は別の機能として作用しているわけですが、相乗効果はあり得ると思いますね。はっ酵乳とフルーツを組み合わせて食べるのは、非常にふさわしい食べ方だと思います。


抗酸化力に対する指標づくりが進められている

■先生はAntioxidant Unit研究会の常任理事も務められていますが、この研究会はどのようなものですか。
 Antioxidant Unitとは、食品の抗酸化力に対する指標のことで、その基準づくりを目指して今年の4月にAntioxidant Unit(AOU)研究会の準備委員会が設立されました。例えばリンゴとミカンでは、トータルの抗酸化力はどちらが強いか、あるいは、リコペン○○mg入りとカテキン○○mg入りの食品では、どちらの抗酸化力が強いかといった評価は、現状ではなかなか困難です。そこで、抗酸化力の単位を設定して比較できるようにしようということです。 抗酸化力の基準を考えるときに、消費者側の視点と生産者側の視点、二つの視点があります。消費者側としては、身体の中に吸収されて抗酸化物質としてどれだけ作用するかが大切です。一方、抗酸化物質には食品の品質の低下を防ぐという機能もありますから、そのような食品自体の特性の指標として単位を示すという考え方もあります。この二つを統一した指標の確立を目指して、AOU研究会で様々な論議を行っているところです。

■体内で抗酸化物質がどれだけ作用するかを測定するのは難しそうですね。
 確かに、農産物には未知の成分が含まれているかもしれませんし、試験管の中で複数の成分の相乗作用が認められても、体内で同様の相乗作用が期待できるかどうかはわかりません。ですから、今のところは一つひとつの成分の抗酸化力を個別に測定していく方向で考えようということになっています。

■このような指標は、今までなかったのでしょうか。
 食品の抗酸化物質の分析法は、これまでもいくつかが報告されていますが、まだ統一された方法はありません。アメリカではORAC(Oxygen Radical Absorbance Capacity)、つまり活性酸素吸収能力という指標が用いられ、実際にサプリメントや飲料へのORAC値の表記が進められています。ORACは、抗酸化力を調べる際に、実際に生体内にある活性酸素の消去作用を評価して数値化するものですから、現時点では非常に優れた方法だと思います。 またDPPHという方法は、生体内にはない活性酸素の消去能力を調べるものですが、測定が簡単であることから、食品の特性としての抗酸化力を示すのに適しています。そこでAOU研究会では、ORAC値を基本にDPPHなどその他の評価法との相関性を調べ、食品の抗酸化力の統一指標である“Antioxidant Unit”を示していきたいと考えています。

■ORAC値は近い将来、食品などに表示できるようになりそうなのでしょうか。
 アメリカでは既にORAC値は表示されていますし、日本のAOU研究会も表示まで視野に入れて9月14日に設立総会が開催されました。現在、我が国でも、政府の規制緩和会議によって食品の効用に関する表示について規制緩和がなされる方向で検討されていますが、ORAC値の表示もその一連の流れの中で提案されることになると思います。


エビデンス(科学的根拠)レベルを明確にして
食品の機能を表示することが大切

■ファイトケミカル研究の今後の展望についてお聞かせください。
 私たちがこれまで行ってきた、生鮮物、農産食品のケミカルが持つ健康に役立つ機能を“表示”という形で社会に還元することを目指したいと考えています。そのために、食品機能性研究センターでは食品機能性専門委員会と国際対応班を設置しています。専門委員会では、将来に向けた研究の方向や研究成果の広報・活用などを議論し、国際対応班はグローバル化する食品機能性研究と機能性食品に関するヘルスクレーム(健康強調表示)の国際的動向などについて情報収集を行っています。

■日本と欧米の健康強調表示には、どのような違いがあるのですか。
 現在の日本の特定保健用食品制度は個別許可型であり、しかも機能に関与する成分の厳密なコントロールとその作用のメカニズムの解明が必須となっています。2005年からは許可基準が緩和された「条件付き特定保健用食品」も許可されていますが、農産物などについては特定保健用食品の許可を得ることができません。 一方、アメリカの「健康強調表示」(Health Claim)では、例えば「野菜や果物を多く含む食事は、ある種のがんのリスクを低減させる可能性があります」など、FDA(米国食品医薬品局)が十分な科学的合意(Significant Scientific Agreement:SSA)を得たもとして許可しており、食品や栄養素と疾病の関係を表示することができます(表2)。また「限定的健康強調表示」(Qualified Health Claim)も2001年から始まっており、SSAにはまだ届かないレベルの健康強調表示も、「その根拠は限られたものである」など限定的な表示を付けることで認可されています。さらに、アメリカの場合は「構造/機能強調表示」(Structure/Function Claim)も許されており、FDAの承認を受けずに「カルシウムは強い骨をつくります」というような一般的な効用を表示することもできます。 アメリカの健康強調表示・限定的健康強調表示は、エビデンスの精度によってA〜Dの4段階に分けられており(表3)、最も確度が高いAレベルのものについては個別の食品の効用を謳ったものが多いのですが、B、C、Dレベルのものでは、トマトのリコペンなど個別の成分の効用も取り上げられています。このようなシステムは、私たちの研究成果を広報するには非常に適していると思います。

アメリカにおける健康強調表示

■エビデンスのレベルがわかるような形で表示することが望ましいということでしょうか。
 そうです。食品の生体調節機能に関する情報提供を制限してしまうと、商品だけが先行して正確な情報を消費者が得られないことも考えられます。その意味でも、その情報がどのレベルかを明確にする仕組みづくりが望まれます。また、食育を考えたとき、健康にあまり留意していない若い人でも体感的・論理的に納得できる情報提供が必要です。現在は、漠然と「バランスのとれた食生活を」と強調していますが、よりそのバランスを改善するために、頭で理解して納得できるような情報提供を、食品の研究者と医学者の両方で進めていかなければいけないと考えています。

限定的健康強調表示のレベル分類




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