食生活の見直し

骨粗鬆症予防に有効な食生活

折茂 肇 健康科学大学 学長/財団法人 骨粗鬆症財団 理事長 折茂 肇

ここ数年、世界的に骨粗鬆症に関する研究が進み、骨粗鬆症の定義や治療方針が大きく変わってきました。日本においては2006年10月、医師が診断の際に用いる『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン』が全面改訂され、より骨折予防に重点を置いた内容となっています。そこで、今回のガイドライン作成委員会委員長を務められた、健康科学大学学長の折茂肇先生に、骨粗鬆症予防の新しい考え方や、食生活のあり方などについてお聞きしました。


骨粗鬆症の新しい定義とは


■骨粗鬆症の定義が最近変わってきたそうですが、お教えいただけますか。
 従来の定義、すなわち1994年のWHOによる定義では、骨粗鬆症は「骨密度が低下し、骨の微細構造に異常が生じた結果、骨がもろくなり骨折しやすくなった状態」とされていました。つまり「骨密度」が強調されていたわけですが、低骨密度だけでは説明できない骨折があることが次第にわかってきました。そこで、2000年に開かれたNIH(米国国立衛生研究所)のコンセンサス会議では、「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」と骨粗鬆症の定義が改められ、「骨強度」が重視されるようになりました。
 骨強度には、骨密度が70%、骨質が30%くらい関係しているとされており、「骨質」については骨の微細構造や骨代謝回転、微細骨折、石灰化といった観点から検討されます。骨密度はDXA(二重X線吸収度計)などの方法で測定できます。一方、骨質は直接測ることができません。骨代謝の状態は骨代謝マーカーという、骨吸収や骨形成のときに血液や尿に出てくる物質を調べることである程度推定できますが、その他のものを調べることは現在のところ不可能ですので、骨強度の推定は骨密度で代用されているのが現状です。

■骨代謝回転とは、どのようなものですか。
 骨は一度つくられたら一生変化しないように見えますが、実際は破骨細胞が古い骨を壊し(骨吸収)、骨芽細胞が新しい骨をつくる(骨形成)という代謝を繰り返しています。これを骨代謝回転、あるいは骨改変といいます。この骨吸収と骨形成のバランスが崩れると、骨密度の減少を招くことになります。骨吸収が亢進する原因としては、エストロゲンなどの性ホルモンの低下や、カルシウム、ビタミンDの欠乏などがあります。

[図1] 骨強度に及ぼす骨密度と骨質の関係(NIHコンセンサス会議のステートメントより)

■骨粗鬆症かどうかは、骨密度で判定することになるのでしょうか。
 前述のDXA(デキサ)という方法で腰椎か大腿骨頸部(太ももの付け根)の骨密度を測定するのが一般的です。骨密度が若年成人平均値(YMA:20〜44歳の平均的な骨密度)の70%未満の場合は骨粗鬆症と診断されることになります。また、低骨量の人では軽微な力でも骨折してしまうことがあり、これを「脆弱性骨折」と呼びます。脆弱性骨折がある場合は骨密度がYMAの70%未満でなくても骨粗鬆症と診断します。
 骨粗鬆症にまで至らない、骨密度がYMAの70〜80%の場合を「骨量減少」といいます。実際に骨折した患者さんをみると、骨量減少の段階の人が50%程度います。骨折で寝たきりになってしまうと医療経済の面でも非常に大きな負担になります。そこで骨折予防という観点から、『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版』では、骨量減少の人まで視野に入れて「薬物治療開始基準」を設定しました(図3)。

[図2] 原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)

[図3] 脆弱性骨折予防のための薬物治療開始基準

カルシウム、ビタミンD、ビタミンK、たんぱく質の摂取が骨粗鬆症の予防に重要

■「薬物治療開始基準」では、過度のアルコール摂取や喫煙なども骨折のリスクに加えられていますね。
  そうです。様々な疫学データを解析した結果、骨折の危険因子として、低骨密度、骨折の既往、高齢、大腿部頸部骨折の家族歴、喫煙、過度のアルコール摂取、ステロイドの使用、関節リウマチの罹患が挙げられています。骨量減少の段階でも、過度のアルコール摂取(1日2単位※以上)、喫煙、大腿骨頸部骨折の家族歴の3つの危険因子のうち1つでも該当する場合は、薬物治療を開始すべきということになりました。
 骨粗鬆症は遺伝的素因が強く、60%くらいが大腿骨頸部骨折を起こした家族がいる(家族歴)などの遺伝的因子が関係しています。残り40%が環境因子で、食事の影響や運動不足などが関係してきます。
※2単位とは、日本酒2合、ビール・発泡酒350ml缶3本、ワイン4杯、焼酎3杯、ウイスキー(ダブル)2杯程度。

■食生活では、やはりカルシウムの摂取が大切でしょうか。
 カルシウムの摂取は、骨粗鬆症になって骨折を起こした人に対してはあまり治療効果がないことがいろいろな研究からわかってきましたが、骨粗鬆症の予防のためには非常に大切です。
 骨密度は子どもの頃から増え続けて20歳から40歳代半ばでピークに達します。これを骨量頂値とかピークボーンマスといいます。ところが50歳を過ぎると骨が減ってきて、ある限界まで減ってしまうと骨折を起こすリスクが非常に高くなるわけです。この骨量頂値を増やすことが骨粗鬆症の予防には非常に大切なのです。つまり骨をたくさん貯金しておけば、少しくらい減ってきても骨折の危険性を防ぐことができるということです。
 この骨量頂値を高めるために、カルシウムの摂取が不可欠です。特に骨密度が増加する幼児期から高校生くらいまでに牛乳などからカルシウムをしっかり摂る習慣を身につけることが大切です。カルシウムの目標量としては、1日に800mg以上摂取したいものです。食事で十分に摂れないときはサプリメントで摂ることも必要になります。牛乳の場合、乳糖不耐症で下痢してしまう人がいますが、そのような人はチーズやヨーグルトなどの他の乳製品、あるいはサプリメントで摂取することが望ましいといえます。カルシウムは牛乳・乳製品以外にも野菜や大豆製品、小魚、干しエビなどにも含まれていますから、そのようなものもバランスよく食べることが大切です。
 また、ビタミンDやビタミンK、骨の構成分であるたんぱく質の摂取も必要です。骨粗鬆症予防のためのそれぞれの1日あたりの摂取目標量は、ビタミンDが400〜800IU(10〜20μg)、ビタミンKが250〜300μg、たんぱく質は女性が50g、男性が60gです。高齢者ではたんぱく質の摂取量が少ない場合が多く、骨量減少を助長している可能性があるという報告もありますから、たんぱく質不足にならないように注意する必要があります。

■ビタミンDやビタミンKはどのような働きをするのでしょうか。
 ビタミンDはキノコやウナギ、サンマなどの魚類に多く含まれ、腸管からのカルシウムの吸収を促します。また、ビタミンDは骨にも直接働く、つまり骨形成を促進する作用もあります。卵や納豆、野菜などに含まれるビタミンKも骨に直接作用し、骨吸収を抑えたり、骨形成を促す作用が認められています。骨形成という面では、骨がつくるオステオカルシンというたんぱく質の合成をビタミンKが高めることがわかっています。オステオカルシンはカルシウムが骨に沈着する際に必要なたんぱく質ですから、そのオステオカルシンが増えれば、当然骨は丈夫になるといえます。

[表2] 骨粗鬆症予防のためのカルシウム、ビタミンD、ビタミンK摂取目標量

■牛乳や乳製品のカルシウムは、他の食品より吸収効率がよいそうですね。
 牛乳や乳製品に含まれる乳糖や、たんぱく質の一種であるカゼインが消化過程で生成するカゼインホスホペプチドの作用によって、カルシウムの吸収が促進されます。ですから牛乳や乳製品の摂取は骨にカルシウムを蓄える上で極めて効率のよい手段といえます。一方、他の栄養素のことも考えると、いろいろな食品を摂ることが望ましいといえます。『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版』に掲載している「カルシウム自己チェック表」(表3)は、摂取の目安や自分の状態がわかりますので、参考にしてもらうといいと思います。

[表3] カルシウム自己チェック表(普段の食事でどれくらい食べていますか?)


体重をかける運動が効果的

■乳製品をよく摂る欧米では、高齢者の骨折が日本より多いと聞いたことがありますが。
 北欧などではよく牛乳が飲まれますが、大腿骨頸部骨折の発生率は日本より高いことが報告されています。大腿骨頸部骨折は非常に成因が複雑で、骨密度だけでは説明できないのです。
 例えば背が高い欧米人では大腿骨の頸部が長くなりますから、短い日本人より折れやすいという解剖学的な要因も考えられます。体重が重いために転倒しやすいことなども関係しますし、ビタミンDやビタミンKなど、カルシウム以外の栄養素の摂取状況も関係している可能性があります。

■運動習慣との関係についてはいかがですか。
 様々な研究を解析した結果、運動は閉経後女性において腰椎と大腿骨頸部の骨密度減少を予防する効果があるとされています。また、階段昇降や散歩などの日常生活活動が大腿骨頸部骨折の予防に効果的なことも報告されています。その意味では、畳の生活という日本式のライフスタイルは骨粗鬆症予防にも意味があるといえます。例えば畳から立ち上がる動作などは、大腿筋群を鍛えることにもなるわけです。

■運動では、どのようなものが理想的なのでしょうか。
 体重をかける運動が効果的です。骨に機械的刺激がかかると、骨形成が盛んになるのです。逆に無重力状態ではたちまち骨が減ってしまいます。宇宙飛行士が帰還したときなどは骨密度が低下してしまっていることが知られています。また、ギプスをしていたり寝たきりでいると、たちまち骨密度が低下してしまいます。
 具体的な運動としては、ウォーキングやランニング、エアロビクス、太極拳などが、腰椎の骨密度低下を予防する効果があります。また、背骨の中でも特に柱となる椎体の骨折予防には、背筋を鍛える運動が有効だということも報告されています。
 骨粗鬆症を予防するためには、若い頃に必要量のカルシウムを摂取し、十分に運動するなどして、より高い骨量頂値を得ることが大切です。また、中高年になっても食事に気をつけ、運動習慣や活発な身体活動を維持することで、骨の減少量を最小限に抑えることができます。それが骨粗鬆症、ひいては骨折の予防につながることをよく認識していただきたいと思います。

 

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