食生活の見直し

カルシウムとビタミンDの大腸がん予防効果

溝上 哲也 国立国際医療センター研究所 国際保健医療研究部
部長 溝上 哲也

カルシウムやビタミンDの摂取が大腸がん予防に関連していることは、日本ではあまり知られていませんが、世界中の疫学研究をまとめたがん予防に関する報告書(2007年出版)では、すでにカルシウムによる予防効果は「ほぼ確実」とされ、ビタミンDも「可能性あり」と示されています。九州大学在籍時から現職に至るまで「カルシウムとビタミンDの大腸がん予防効果」の研究を続け、2008年10月にその研究成果をアメリカの専門誌に発表された国立国際医療センター研究所の溝上哲也先生に、その概要をお聞きしました。


カルシウムは大腸がんのリスクをほぼ確実に低下させる


■カルシウムと大腸がんの関係については、これまでも欧米などで研究されていたのでしょうか。
 かなり前からそのような研究はありましたが、1990年代の後半くらいまでは、カルシウムと大腸がんの関連については可能性があるという報告とないという報告が混在し、明確な関係はないだろうという認識が大勢を占めていました。実際に世界がん研究基金と米国がん研究所が1997年に発表した報告書でも、カルシウムについては大腸がん予防に関連がある栄養素としては分類されていませんでした。
 私は2002年に九州大学医学部予防医学講座に赴任しましたが、その頃、講座を主宰する古野純典教授らの研究チームが福岡市内およびその近郊で大腸がんの症例対照研究を行っており、私もその研究に途中から加わりました。まだ大腸がんのデータは収集の途中でしたので、私は、大腸がん研究以前から行われていて、すでにデータが揃っていた大腸腺腫の解析を最初に行ってみたのです。大腸腺腫は大腸ポリープの一種で、健常人にも見つかる良性腫瘍ですが大腸がんに変化する可能性があります。私は食パターンに興味があったので、どのような食パターンの人に大腸腺腫が少ないかを調べてみました。
 最初は、日本の伝統的な食パターン、つまりごはんをよく食べて、魚やみそ汁を摂取するような食事が有効だろうと予想していたのですが、実際に解析してみると、日本食のパターンは大腸腺腫の低下とは関連しておらず、意外なことに牛乳や乳製品をよく摂取している食生活と大腸腺腫の低下との間に関連が見られたのです。大腸腺腫が低下しているのなら、大腸がんも低下している可能性がありますから、過去の文献を調べ直してみました。すると、1990年代後半以降に発表された欧米の前向き大規模研究から、カルシウムが大腸がんの発生リスクを低下させるという報告が相次いで発表されていました。また欧米では、大腸腺腫を取り除いた人達を対象に、カルシウムのサプリメントかプラセボ(偽薬)のどちらかを飲ませる介入研究も行われ、カルシウム服用群で腺腫の再発が少なかったという結果も報告されていました。このような研究結果から、世界がん研究基金と米国がん研究所が10年ぶりに改訂した2007年の報告書では「カルシウムはほぼ確実に大腸がんを予防する」という結論に至っています(表1)。カルシウムを多く含む牛乳についても同じ判定結果でした。

(表1)「食品、栄養、身体活動とがん予防:世界的視野から」報告書(2007)

カルシウムの最大摂取群は、最小摂取群に
比べて大腸がんのリスクが36%低下

■実際に先生たちが福岡で行った研究でも、カルシウムの大腸がん予防効果が見られたのですね。
 そうです。日本でのカルシウムと大腸がんの先行研究は一つしかなく、私たちの研究は日本で2番目になると思います。この研究結果は、アメリカの医学誌“Cancer Epidemiology Biomarkers & Prevention”2008年10月号に発表しました。
 調査は2000年から2003年にかけて福岡市およびその近郊の大腸がん入院患者836人と非大腸がんの住民861人を対象に行い、148食品の摂取頻度と摂取量、職業(歩行を伴う仕事かどうかなど)、喫煙、飲酒、日常生活での活動量などを聞き、大腸がんのリスクとの関連を調べました。
 カルシウムの摂取量については、最も少ないグループ(男性:464mg/日未満、女性:535mg/日未満)から最も多いグループ(男性:795mg/日以上、女性:842mg/日以上)まで5つに分けて調べたところ、最も多いグループは最も少ないグループに比べて大腸がんのリスクは0.64倍、つまり36%もリスクを低下させるという結果になりました(図1)。ただし、この調査は148食品をパソコン画面に表示して、対象者にどれをどれくらい食べているかを聞く方法でしたので、カルシウム摂取量は20%ほど割り引いて見る必要があります。そのことから、1日700mg以上カルシウムを摂っていれば大腸がんのリスクは低下すると思われます。

(図1)カルシウム摂取量と大腸がんの関連

■牛乳や乳製品との関係はどうでしたか。
 乳製品全体では統計的にあまり有意な結果が見られませんでしたが、牛乳については摂取量が最も多いグループ(200g/日以上)は最も少ないグループ(50g/日以下)に比べて大腸がんのリスクは0.6倍、つまり40%も低下していました(図2)。ただし、牛乳以外の乳製品をみると、明確ではありませんが摂取量が多いほどリスクが上がる傾向がありました。世界的な研究報告を見ると、カルシウムや牛乳が大腸がんのリスクを下げることはほぼ確実ですが、その他の乳製品については関連がはっきりしていません。その他の乳製品にはヨーグルトやチーズ、バターなどが含まれますが、ヨーグルトは腸の健康に良い影響を与えることが報告されていますから、単独で調べてみる必要がありますね。また今回の調査の対象者のうち、がんの人は腸の調子が悪いと自覚してヨーグルトを積極的に摂取していた可能性もありますから、その行動が結果に反映されているのかもしれません。

(図2)牛乳・乳製品の摂取量と大腸がんの関係

カルシウムとビタミンDにより大腸がんのリスクはさらに低下する

■ビタミンDの摂取量と大腸がんとの関係についても調べられたのですね。
 はい。まず、食事からのビタミンDの摂取量を調べてみたところ、摂取量が最も多いグループではやや大腸がんのリスクが下がる傾向があるものの、あまりその関連は明確ではありませんでした。しかしビタミンDは食事からだけでなく、日光に当たると体内でもつくられます。そこで、日光によく当たる人と当たらない人で、ビタミンDの摂取量と大腸がんのリスクを解析してみました(図3)。すると、日光にあまり当たらない人では、食事からのビタミンD摂取と大腸がんリスクの低下の関連がはっきりしていることがわかりました。つまり内勤の人など、日光にあまり当たらない人についてみれば食事からのビタミンDの摂取が重要だということを示しています。
 ビタミンDはカルシウムの吸収を促進させる働きがあります。この2つの栄養素による大腸がん予防の相乗効果が期待できますから、そこに注目して解析したのが図4〜6です。図4は食事からのビタミンDよびカルシウムの摂取量と大腸がんとの関連、図5は日光曝露およびカルシウム摂取量と大腸がんとの関連、図6は食事からのビタミンD摂取量・日光曝露の両方およびカルシウム摂取量と大腸がんとの関連です。結果を見ると、カルシウムの摂取量が多く、なおかつビタミンDの摂取量が多い人のリスクが低下しています。また、カルシウムの摂取量と日光曝露が多い人、カルシウム摂取量が多く食事からのビタミンD摂取量と日光曝露の両方が多い人もリスクが非常に下がっています。このことから、カルシウムの単独摂取よりも、カルシウムとビタミンD両方の摂取によって相乗的な効果が期待できるといえます。

(図3)ビタミンD摂取量と大腸がんリスクの関連

(図4)食事からのビタミンDおよびカルシウム摂取量と大腸がんの関連

(図5)日光曝露およびカルシウム摂取量と大腸がんの関連

(図6)食事からのビタミンD摂取量・日光曝露およびカルシウム摂取量と大腸がんの関係

カルシウムは様々な生活習慣病のリスク低減に関与

■カルシウムやビタミンDが、なぜ大腸がんのリスク低下に関与するのでしょうか。
 肝臓でつくられて腸の中に排出される胆汁は消化液ですが、その中に含まれる胆汁酸が腸内で二次胆汁酸に変化すると、発がんを促進します。この二次胆汁酸にカルシウムが結合することで無毒化されて便中に排泄されるという説があります。また、カルシウムはビタミンDと一緒に腸粘膜細胞の分化などを正常化する作用も実験的に示されています。

■大腸がん以外の病気ともカルシウムやビタミンDは関係していますか。
 もちろん骨粗しょう症との関係はこれまでもよく言われてきましたが、現在、私はカルシウムやビタミンDと糖尿病との関係についても興味を持って調べているところです。欧米ではメタボリックシンドロームや肥満などの生活習慣病との関係を調べた研究もいくつかあります。また2008年7月には国立がんセンターのグループが、乳製品からのカルシウム摂取が脳卒中発症のリスクを低減させると報告しています。カルシウムは血管の内膜を安定させたり、血圧を安定させたりする方向に働きますから、循環器疾患や代謝性疾患をはじめとする様々な生活習慣病の予防に関係する可能性があるわけです。今後、糖尿病など、がん以外の疾病との関係についても検証していきたいと考えています。

■カルシウムは骨をつくるもとになるだけではないのですね。
 カルシウムは細胞内でのエネルギー代謝などあらゆる基礎的な部分に深く関わっています。極端にカルシウムが不足すれば問題なのは当然ですが、ある程度不足しているというレベルでも生活習慣病発症の危険性を高める可能性もあるわけですから、どれくらい摂取すれば十分といえるのか、データに基づいた再検討が必要ではないでしょうか。現在、日本人の30〜49歳の1日の目安量は男性が650mg、女性が600mgですが、もしかしたら700〜800mg、あるいは欧米並みに1000mgまで上げる必要があるかもしれません。カルシウムの摂取量が多くなると前立腺がんのリスクが高まることが報告されていますので、よいことばかりではないのですが、日本人の現在の摂取量を考えると、もっと摂取量を増やしてもいいと思います。
 ビタミンDについては、私が以前に行った研究でも、県単位での日射量と大腸がんなどの消化器がんによる死亡率には相関関係があり、日射量が少ない地域ほど死亡率が高いという結果が得られました。過度に日光を浴びることは皮膚にダメージを与えるので避けるべきですが、日に当たると皮膚で大量のビタミンDが作られますので、がん予防の観点からも適度な日光浴は大切なのではないかと考えています。

 

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