抗酸化食品と免疫老化の予防

はじめに

 免疫機能は自己と非自己の区別に始まり、ウィルス等の感染や癌細胞の増殖から宿主(生体)を守ることがその役割の基本である。免疫反応の初発段階に於いて行われる自己と非自己を区別するという弁別能は、主に胸腺においてT細胞が獲得する認識能力である。これは自己に対しては不反応(自己寛容性)で非自己にのみ反応するT細胞が分化・成熟すること(positive selection and negative selection)によって可能になる。胸腺はT細胞が分化・増殖するため、骨髄と同様に第一リンパ器官と位置づけられ、出生から成長期に至る期間であらゆる外界の抗原に対する防御能を獲得するために、免疫反応発現の中心的器官である。

免疫老化とは

 胸腺の発達は様々なサイトカインやホルモン等によって調節されている。加齢に伴う免疫系の老化は主にこの胸腺の萎縮という形態学的変化としてあらわれてくる。従って、免疫能の加齢による変化は、胸腺の発達と萎縮の進行度によく一致し1,2)、また加齢によって癌や自己免疫疾患、感染症の罹患率の増加と胸腺の萎縮の度合いもよく一致している3)。現在のところ胸腺の萎縮がどの様なメカニズムによって引き起こされてくるのかは明らかにされていないが、実際の年齢よりも先に胸腺の萎縮を伴った免疫老化が起こることより、免疫老化は生体のペースメーカーと考えることができる。
 生体の老化メカニズムには、いくつか提唱されているが、特に酸化ストレスにより細胞老化、ひいては生体の老化が引き起こされると考えられている。胸腺細胞は未分化T細胞であり、他の臓器に比べ酸化ストレスに非常に感受性が高いことが報告されている。従って他の臓器よりも胸腺細胞が酸化ストレスの傷害を受けやすいことが想像される。高齢者に特徴的な免疫能の低下もホルモン及びサイトカイン調節に加え、酸化ストレスにより胸腺が萎縮し、免疫担当細胞の新たな分化誘導能低下および免疫老化が引き起こされることが推察されている。

免疫老化の性差

 免疫老化の機質的変化として認められる胸腺の萎縮には性差があることが知られている4)。マウスの胸腺の萎縮の進行度について、3週齢から35週齢のマウスを用いて胸腺重量を測定すると、胸腺重量は雄雌共に4〜5週齢で最も重くなり、その後加齢に伴って減少する。5週齢、10週齢、老齢(35〜45週齢)マウスで胸腺の重量を比較すると、明らかに雄において胸腺の萎縮が進んでいる(図1)。

加齢による胸腺重量の変化

加齢による免疫能の老化は、胸腺の萎縮に相関したT細胞の機能低下として説明されている。T細胞の数及び機能の変化は、CD8T細胞数の減少、ナイーブT細胞の減少、メモリーT細胞の増加、T細胞のサブセットにおけるTh1/Th2比の減少、CD28-T細胞の増加、外来刺激に対する増殖応答能の低下等が報告されている。このCD8細胞サブセットの減少は、特にウィルス感染やガン細胞に特異的な細胞傷害性T細胞( Cytotoxic Tlymphocyte:CTL)の減少を引き起こし、感染症に対する易感染性及び抵抗力の低下、ガン抑制能の低下が引き起こされると推察され、高齢者の免疫能の低下の一つの要因であると考えられる。

加齢にともなう抗酸化酵素活性の変化

 胸腺萎縮の機構については未だ明らかではないが、細胞老化として酸化ストレスが考えられている。また、抗酸化ストレス能力が加齢に伴って変化することより、胸腺での抗酸化能力の低下が胸腺萎縮の要因であることが考えられる。細胞内での抗酸化能を担う抗酸化酵素として、Gulutathione peroxidase(GPx), Superoxide disumutase (SOD)、catalaseに代表されるが、各臓器でのGPx, SOD活性を解析すると、赤血球中のGPx及びSOD比活性は雄雌共に加齢に伴って有意に上昇するか、あるいは10週齢と老齢間とでは有意な差はみとめられない。一方、胸腺においては、SOD比活性は、10週齢と老齢間とで有意な差は認められないが、GPx比活性は雄雌共に10週齢に比べ老齢の方が有意に低下しており、雄のほうが雌に比べ比活性が低い傾向が認められている(図2)。

加齢に伴った胸腺Glutathion peroxidase 比活性

以上の事より、酸化ストレスに対する能力に及ぼす加齢の影響は臓器によって異なっている。赤血球においては、加齢にともなって増加すると考えられている細胞内活性酸素に応じて抗酸化酵素活性も上昇しているが、胸腺においては雄雌共に抗酸化能力は低下している。またその反応性には性差があり、加齢に伴う抗酸化能力の低下は、雌に比べ雄のほうに認められることは、雄の方が雌よりも抗酸化能力の低下が著しいことが推測される。

抗酸化成分の抗酸化能について

 加齢による胸腺の萎縮と抗酸化酵素活性の低下が一致することは、胸腺の萎縮が胸腺の酸化ストレスに対する抵抗性の低下によって加速される可能性が示唆され、細胞老化の一要因としての酸化ストレスの関与が推察できる。生体内での酸化ストレス、例えば細胞内発生のフリーラジカルに対する抗酸化能力は、細胞内抗酸化酵素群や生体内抗酸化物質(例えばグルタチオンなど)が担っているが、加齢に伴う抗酸化酵素活性の低下を補うためには、生体外からの抗酸化物質の補給が有効であると期待されている。食品中に含まれる抗酸化物質はビタミンCやビタミンEの様な抗酸化ビタミンが良く知られている。
 最近では、これらの抗酸化ビタミン以外に、抗酸化成分としてポリフェノールが注目されている。これまで、抗酸化成分の抗酸化能力は、試験管内試験( in vitro )で、ラジカルを発生させ、酸化物質を定量し、抗酸化成分の抗酸化能で評価されている。抗酸化成分19種(Cathechin, Flavone, Isoflavone, Carotene, Anthocyanidin, Chalcone, Stilbenes)(表1)において試験管内での活性酸素消去能(O2-. OH-)及び細胞内での活性酸素 ( Reactive oxygen species: ROS ) の消去能について検討すると、各種フラボン類 における試験管内における抗酸化能は、いずれのフラボン類においても抗酸化能が認められる。試験管内試験においては、ポリフェノールの構造と抗酸化能はOH 基の位置に関連があるとされている5)。 これに対し、細胞内活性酸素の消去能を有していたのは、9種類にとどまっており(表1)、細胞内と細胞外とでは同じ抗酸化物質でも抗酸化能が異なっている。例えば、試験管内において同程度の活性酸素消去能が認められるルテオリン とアピゲニンを細胞内での活性酸素消去能を比較すると、ルテオリンは濃度依存性に細胞内の細胞内活性酸素を消去し、細胞内でも強い抗酸化能力を有しているのに対し、アピゲニンは抗酸化能力を示さない。このことは、細胞内外での抗酸化活性差は、抗酸化能の発現には他の因子、例えば細胞内への取り込み等の因子が影響することを示唆している。 抗酸化成分の作用点が抗酸化成分によって異なることより、抗酸化成分の効果的な摂取法として、細胞外でのみ作用する抗酸化成分を摂取するのではなく、細胞内でもその作用を発現する抗酸化成分を摂取することが、細胞を活性酸素から防御する為にはより効果的であり、それらを多く含む食品群を積極的に摂取することが必要である。

食品中の抗酸化能力

食品中の抗酸化成分

 最近注目されている抗酸化食品によるアンチエイジングの考えは、主にこの酸化ストレスによる細胞傷害を抗酸化成分によって抑制することが期待されることから発しており、最近抗酸化食品の抗酸化成分が注目されている。どのような食品に抗酸化成分が含まれているのであろうか?
 抗酸化成分であるポリフェノールの多くは植物由来の抗酸化成分である(表1)。植物は、太陽の紫外線によって光合成を行って有機化合物を合成し、生命維持をしている。紫外線は細胞に対してDNA等の傷害などの細胞傷害性を有しているために、紫外線から細胞を保護するために抗酸化成分を植物が細胞内、特に皮と実の間に蓄積していることは、非常に合目的であると考えられる。
 食品中の抗酸化成分であるポリフェノールは単に抗酸化成分として、フリーラジカルを消去するだけではなく、細胞の増殖等に関連する情報伝達に中心的な役割をしている酵素の阻害作用を有する事が明らかになっており、多面的な作用機序が推測されている。
 また、抗酸化成分としてポリフェノール以外に重要な食品成分として微量元素がある。特にセレン(Se)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)は抗酸化ミネラルとして位置づけられる。直接的なフリーラジカルの消去ではなく、抗酸化酵素であるGPxや SODの補酵素として、あるいは細胞増殖におけるDNA複製やたんぱく質合成酵素、抗酸化酵素活性発現に重要な役割をし、免疫細胞の機能維持に重要な役割を担っている(表2)。これらミネラルは広く動植物に存在している。
  抗酸化ビタミンであるビタミンCは主に植物、野菜や果物に広く存在し、ビタミンEはナッツ類や植物油に多く含まれている。

抗酸化ビタミン、ミネラルの免疫細胞に及ぼす影響

免疫機能を保持するための食生活とは

 加齢に伴う免疫能低下は老化としての一現象であり生理的・生物学的な変化である。筆者らのこれまでの結果から、高齢者の免疫機能の低下の一つの機構として、免疫能の中心を担っている胸腺において、抗酸化酵素の活性が低下していること、高齢者は実際に血液中の抗酸化酵素の補酵素となる微量元素が低下していたことにより、高齢者の胸腺環境はストレスに対して脆弱になっていることが伺え、これらが酸化ストレスに対する抵抗性を弱くし、免疫能低下傾向を促していることが示唆されている。
 国民栄養調査結果によると、我が国では免疫機能に大きな影響を及ぼすといわれているたんぱく質摂取においては、十分に摂取できている。これらの食生活に加えて、セレン等の抗酸化酵素関連微量元素を多く含む食品摂取や、細胞外のみでなく細胞内においても抗酸化能力を発現できうる抗酸化成分を多く含む食品群(主に野菜、果物群)を十分に摂取することが、加齢に伴って低下する抗酸化能力を保持し、免疫老化を保持するために重要であることが考えられる。
 最近Bubらは、抗酸化成分を多く含む果物のジュースを2週間摂取すると、生体内の酸化物質が減少し、マイトゲン刺激による細胞からのサイトカインであるIL-2分泌量やNK活性が上昇することを報告している6)。このことは、抗酸化成分を摂取することにより、免疫能を調節することが可能であることを示している。筆者らも、ルテオリンを多く含む食品を2週間摂取することにより、細胞内の抗酸化能が上昇し、細胞のマイトゲン刺激による増殖能が亢進することを見いだしている。しかしながら、ルテオリンを多く含む食品を継続摂取すると、免疫反応性が高まるが、細胞のサブセットがアレルギー反応に傾くことを見いだしている。そこで摂取量を少なくしたり、あるいは同じポリフェノールでも、細胞にたいして異なった反応性を示す抗酸化成分を含む食品を同時に摂取することにより、細胞のサブセットの偏りであるアレルギー反応への偏向を抑制できることを見いだしている。
 この結果は、単独の抗酸化成分のみを多量に摂取するのではなく、抗酸化成分の効果を見合わせながら、様々な食品(野菜や果物)を組み合わせて摂取することが必要であることを示している。

免疫老化の為の総合管理

 免疫能の調節に関連する因子として、正と負の因子を考えることができる(図3)。免疫能を低下させる因子としては、肥満、加齢、ストレスが考えられ、正の因子には、抗酸化成分を含む抗酸化能を維持するための栄養成分と生体内の抗酸化能が挙げられる。免疫老化が引き起こされる際には、免疫に負の作用を及ぼす因子、例えば肥満、加齢、ストレスと、免疫維持に正の作用を及ぼす生体内抗酸化能、抗酸化能を補う為の栄養(たんぱく質、ミネラル、抗酸化ビタミン、抗酸化成分)のバランスが、負に傾いた際に免疫老化が促進されると考えられる。従って免疫老化を抑制しようと試みる際には、これまで述べてきた様な正の因子の強化のみではなく、負の因子の中で、調節可能な因子、例えば肥満予防やストレスの管理を行い、負の因子の減弱を試みる必要がある。

免疫能を調節する正と負の因子

<参考文献>
1)Lewis,V.M., Twoney, J.J., Beatmar, P., Goldstein, G. and Good, R,A.1978. Age , thymic involution and circultation thymic hormone activity. J. Clin. Endocrinol.Metab. 47:145-150.
2)Singh,J. and Singh, A.K. 1979. Age-related changes in human thymus. Clin.Exp.Immunol.37:507-511.
3)Goldstein,A.L., Thurman, G.G. Low, T.L.L. Trivers, G.E. and Rossie, J.L.1979. Thymosin: The endocrine thymus and its role in the aging process. Pp 51-60 in A Scott and B.L.Strehler (eds.), Physiology and Cell Biology of Aging( Aging vol.8 ). Raven Press, New York.
4)Aspinall,R. and Andrew D. 2001. Gender-related differences in the rates of age associated thymic atrophy. Devlop.Immunol 8:95-106.
5)Heijnen,C.G.M., Haenen,G.R.M.M., Van Acker,F.A.A.A., van der Vijgh,W.J.F. and Bast,A. 2001. Flavonoids as peroxynitrite scavengers: the role of the hydroxyl groups. Toxicology in Vitro 15:3-6.
6)Bub A., Watzl B. Bloc, M., Haus M et al. 2003. Fruit juice consumption modulates antioxidave status immune status and DNA damage. J. Nutri. Biochem., 14 ;90-98



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