福土審乳酸菌関連記事プロバイオティクスについて

頻度が高い過敏性腸症候群(IBS)と
プロバイオティクスについて


 過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome; IBS)はきわめて高頻度であり、生活を障害する重要疾患であることが近年判明してきた。その発症は脳腸の機能的悪循環の形成、消化管粘膜の一過性炎症もしくは微小炎症による筋層間神経叢機能の改変、遺伝的にある神経機能を持つ個体に消化管粘膜の一過性炎症が加わることによる可能性が大きくなって来た。一方、IBS患者の大腸粘膜では免疫賦活状態にある成績が報告されている。現時点でIBSの粘膜炎症、サイトカインと神経伝達物質の関係は不明な点も多いが、粘膜炎症持続の要因として、腸内細菌の異常が想定されている。慎重に計画された介入研究においては、プロバイオティクスの投与によって、IBSの愁訴はbacterial overgrowthの克服を介して改善すると考えられる。それはおそらく菌種により異なるであろう。

キーワード:過敏性腸症候群/脳腸相関/消化管運動/
内臓知覚/機能性消化管障害/粘膜炎症/プロバイオティクス

はじめに

 過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome; IBS)患者の大部分は、ストレスによる腹痛あるいは便通異常の発症もしくは増悪で特徴づけられ、心身症の病態を呈する1,2)。消化器診療の中でもっとも多い疾患はIBSである。最近の概念に基づくIBSの有病率は概ね一般人口の10-15%、1年間の罹患率は1-2%と概算される。主要文明国では、IBSが医療費に及ぼす悪影響が甚大である。さらに、IBSによりquality of life (QOL)が障害されることで、その経済的損失も無視できない規模に生ずる。

IBSとは

 脳と腸の機能的関連を脳腸相関(brain-gut interactions)と呼ぶ1)。臨床医学において脳腸相関が病態の中心をなす疾患群が機能性消化管障害functional gastrointestinal disordersである2)。IBSはその原型となる障害である2)
  IBSを含む機能性消化管障害全体の診断基準がRome U基準であり、癌や潰瘍などの器質的疾患が症状の原因ではない疾患群をこの基準で定義する3,4)。Rome Uにおいては、IBSは「腹痛あるいは腹部不快感が12ヶ月の中の連続とは限らない12週間以上を占め、その腹痛あるいは腹部不快感が、@排便によって軽快する、A排便頻度の変化で始まる、B便性状の変化で始まる、の3つの便通異常の2つ以上の症状を伴うもの」と定義されている(表1)3,4)。一方、定義からは除外されたが、診断を補強する症状3)は、1週間に3回未満の排便回数、硬便/兎糞状便、もしくは排便困難で定義づけられる便秘、1日に3回より多い排便回数、軟便/水様便、もしくは便意切迫で定義づけられる下痢、残便感、粘液の排出、腹部膨満感、腹部膨満、腹部膨隆、である(表2)3,4)

 

粘膜炎症による消化管運動と知覚の変化

 IBS研究の初期から、腸内細菌が撹乱される感染性腸炎に罹患した後にIBSが発症することが知られていた5)。しかし、この見解はほぼ30年の間忘れられていた。これが重視されるようになったのは最近のことである。英国のReadは、IBSと気管支喘息の類似性に着目した6)。気管支喘息はしばしば呼吸器感染を契機として発症し、慢性の気道炎症がその本質と考えられる。それならば、IBSでも同じことが起こっているのではないか?これをChaudaryとTrueloveの報告5)よりも明瞭に証明するにはどうすれば良いか?
  IBSの発症をprospectiveに検討すれば良い。そこで、急性腸炎の患者群を対象に、炎症が全て消退した後のIBSの発症を観察した7)。その結果、やはりIBSが29.3%という一定の割合で発症したのである7)。IBSが発症した患者群とIBSが発症しない患者群を分ける最も大きな相違点は、急性腸炎罹患時点の心理的異常(抑鬱、不安、身体化)である7)。これらのストレス感受性の高値がpost-infectious IBS発症の危険因子であることが示唆された。
  同じ時期に、動物においても消化管炎症と消化管機能異常の繋がりが証明された。炎症性腸疾患のモデルであるtrinitrobenzene sulfonic acid (TNBS)腸炎をつくり、それを回復させる8)。更に、腸炎のある時期にラットにストレスを負荷した群を作る。その上で、筋層間神経叢の抑制性ニューロンの神経伝達物質であるノルアドレナリンの放出量を測定する。ノルアドレナリン放出量は、粘膜炎症とストレスが同時に加わったときに限って低下する。すなわち粘膜炎症があり、しかもストレスが負荷されると筋層間神経叢の機能が変化し、それが記憶される。この機序そのもの、あるいは類似の現象がIBSの根本にあるのではないかということで研究が進められている。すなわち、IBSの消化管運動・知覚異常の源流は粘膜炎症ではないかと示唆されている。
  一方、どのような免疫担当細胞が筋層間神経叢の記憶の変化に関与しているのかという問題がある。IBS患者の終末回腸から生検し、健常者に比べて肥満細胞の数が増加していたという成績が報告されている9)。また、ヘマトキシリン-エオジン染色で正常に見えるIBS患者の大腸粘膜では上皮内リンパ球が1.8倍、CD3+細胞が2倍、CD25+細胞が6.5倍に増加し、免疫賦活状態にあることも報告されている10)
粘膜炎症、サイトカインと神経伝達物質

 IBSの脳腸の病態生理を一元的に説明しうる有力な物質が脳と腸の双方に豊富に存在するcorticotropin-releasing hormone(CRH)である11)。腸のCRHの源は免疫担当細胞と筋層間神経叢である。CRH負荷により、下垂体からadrenocorticotropic hormone(ACTH)が放出されるのと同時に大腸運動が惹起される11)。IBSにおいてはCRH負荷時のACTH放出と大腸運動のいずれにおいても過大な反応が生ずる11)。IBSの心理的異常としては抑鬱と不安が多いが、CRHはこれらの心理的異常と関連するペプチドである。消化管腔刺激により、ラットでは室傍核においてCRH放出が生ずる。ストレスやCRH投与は消化管知覚閾値を低下させる。われわれは、消化管刺激に対する消化管運動と消化管知覚に伴う情動はともにCRH拮抗薬により顕著に改善することをIBSで証明した12)。また、同様の結果をIBSのモデル動物で証明し、しかも、それが、R1とR2に2大別される受容体の中のR1によるものである結果を得た13)。R1の刺激は炎症を増悪させ、R2の刺激は炎症を和らげる14)。CRHはIBSの脳と消化管の双方の病態に重要な働きをしている可能性が高い。
  IBS消化管のサイトカイン産生能も注目される。直腸におけるinterleukin-1βのmRNAはpost-infectious IBSを発症したIBS患者でpost-infectiousでないIBS患者に比べ感染時に高く、3ヶ月後の炎症回復時にも増加している15)。現時点でIBSの粘膜炎症、サイトカインと神経伝達物質の関係は不明な点も多いが、粘膜炎症持続の要因として、腸内細菌の異常が想定されている。

IBSに対するプロバイオティクスの効果

 従来のIBSの治療において、プロバイオティクスの位置は補助的であったと言っても過言ではない。しかし、最近、この見解の見直しを迫る新たな知見が出現しつつある。
  Pimentelら16)は、IBS患者202例の78%に小腸bacterial overgrowthを認めた。その中で、抗生物質を投与したIBS患者25例がIBS症状の顕著な改善を示した16)。Nobaekら17)は、IBS患者25例にLactobacillus plantarumを投与し、placebo投与の27例に比較して、腹部膨満感の改善を報告している。これに対して、Senら18)は、IBS患者12例にLactobacillus plantarum 299vを投与し、placebo投与の12例に比較して、腹部膨満感の改善も消化管ガス産生量に差はなかったと報告している。しかし、Mayoのグループ19)がIBS患者12例にプロバイオティクスVSL#3を投与し、placebo投与の13例に比較して、腹部膨満感の改善を認めている(図1)。さらに、最近、Quigleyら20)は、IBS患者75例を3群に分け、placebo、Lactobacillus、Bifidobacteriumを投与し、Bifidobacterium投与群のみで症状の改善を認めた(図2)。これらの結果から、慎重に計画された介入研究においては、プロバイオティクスの投与によって、IBSの愁訴はbacterial overgrowthの克服を介して改善すると考えられる。それはおそらく菌種により異なるであろう。






おわりに

 IBS発症は脳腸の機能的悪循環の形成、消化管粘膜の一過性炎症もしくは微小炎症による筋層間神経叢機能の改変、遺伝的にある神経機能を持つ個体に消化管粘膜の一過性炎症が加わることによる可能性が大きくなって来た。これらの病態を生理的に改善する手段として、プロバイオティクスの役割が高まると考えられる。



<参考文献>
1)Fukudo, S., Nomura, T., Hongo, M.: Impact of corticotropin-releasing hormone on gastrointestinal motility and adrenocorticotropic hormone in normal controls and patients with irritable bowel syndrome. Gut 42: 845-849, 1998.
2)Drossman, D.A., Richter, J.E., Talley, N.J., Thompson, W.G., Corazziari, E., Whitehead, W.E. Functinal gastrointestinal disorders. Little, Brown, Boston, 1994, pp1-174.
3)Thompson, W.G., Longstreth, G.F., Drossman, D.A., Heaton, K.W., Irvine, E.J., Muller-Lissner, S.A.: Functional bowel disorders and functional abdominal pain. Gut, 45 (Suppl II); II43-II47, 1999.
4)Drossman, DA., Corazziari, E., Talley, N.J., Thompson, W.G., Whitehead, W.E.: Rome II: The Functional Gastrointestinal Disorders: Second Edition. Degnon Associates, McLean, 2000.
5)Chaudary NA, Truelove SC. The irritable colon syndrome: A study of clinical features, predisposing causes, and prognosis in 130 cases. Quart J Med 31: 307-323, 1962.
6)Read NW edt.: Irritable Bowel Syndrome: New ideas and insights into pathophysiology. Blackwell Scientific Publications, Oxford, pp3-15, 1991.
7)Gwee KA, Graham JC, McKendrick MW, Collins SM, Marshall JS, Walters SJ, Read NW: Psychometric scores and persistence of irritable bowel after infectious diarrhoea. Lancet 347: 150-153, 1996
8)Jacobson K, McHugh K, Collins SM: Experimental colitis alters myenteric nerve function at inflamed and noninflamed sites in the rat. Gastroenterology 109: 718-722, 1995.
9)Weston AP, Biddle WL, Bhatia PS, Miner PB Jr. Terminal ileal mucosal mast cells in irritable bowel syndrome. Dig Dis Sci 38: 1590-1595, 1993.
10)Chadwick VS, Chen W, Shu D, Paulus B, Bethwaite P, Tie A, Wilson I. Activation of the mucosal immune system in irritable bowel syndrome. Gastroenterology 122:1778-83, 2002.
11)Fukudo S, Nomura T, Hongo M. Impact of corticotropin-releasing hormone on gastrointestinal motility in normal subjects and patients with irritable bowel syndrome. Gut 42: 845-849, 1998.
12)Sagami Y, Shimada Y, Tayama J, Nomura T, Satake M, Endo Y, Shoji T, Karahashi K, Hongo M, Fukudo S. Effect of a corticotropin-releasing hormone receptor antagonist on colonic sensory and motor functionin patients with irritable bowel syndrome. Gut 53: 958-64, 2004.
13)Saito K, Kasai T, Nagura Y, Ito H, Kanazawa M, Fukudo S. Corticotropin-releasing hormone receptor 1 antagonist blocks brain-gut activation induced by colonic distention in rats. Gastroenterology 129:1533-43, 2005,
14)Fukudo S, Saito K, Sagami Y, Kanazawa M. Can modulating corticotropin-releasing hormone receptors alter visceral sensitivity ? Gut, in press.
15)Gwee KA, Collins SM, Read NW, Rajnakova A, Deng Y, Graham JC, McKendrick MW, Moochhala SM. Increased rectal mucosal expression of interleukin 1beta in recently acquired post-infectious irritable bowel syndrome. Gut 52: 523-526, 2003.
16)Pimentel M, Chow EJ, Lin HC. Normalization of lactulose breath testing correlates with symptom improvement in irritable bowel syndrome. a double-blind, randomized, placebo-controlled study. Am J Gastroenterol 98: 412-419, 2003.
17)Nobaek S, Johansson ML, Molin G, Ahrne S, Jeppsson B. Alteration of intestinal microflora is associated with reduction in abdominal bloating and pain in patients with irritable bowel syndrome. Am J Gastroenterol. 95: 1231-1238, 2000.
18)Sen S, Mullan MM, Parker TJ, Woolner JT, Tarry SA, Hunter JO. Effect of Lactobacillus plantarum 299v on colonic fermentation and symptoms of irritable bowel syndrome. Dig Dis Sci. 47: 2615-2620, 2002.
19)Kim HJ, Camilleri M, McKinzie S, Lempke MB, Burton DD, Thomforde GM, Zinsmeister AR. A randomized controlled trial of a probiotic, VSL#3, on gut transit and symptoms in diarrhoea-predominant irritable bowel syndrome. Aliment Pharmacol Ther 17: 895-904 2003.
20)O'Mahony L, McCarthy J, Kelly P, Hurley G, Luo F, Chen K, O'Sullivan GC, Kiely B, Collins JK, Shanahan F, Quigley EM. Lactobacillus and bifidobacterium in irritable bowel syndrome: symptom responses and relationship to cytokine profiles. Gastroenterology 128: 541-51, 2005.



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