乳製品の微生物危害とその制御

はじめに

 現在、CODEXにおいて、リスク評価の結果を基に、非加熱喫食食品におけるリステリア・モノサイトゲネス(リステリア)と、乳児用調製粉乳の微生物規格の議論が進められている。このうち、リステリアは、これまでの集団事例の解析から、特に乳加工品であるナチュラルチーズとの関わりが重要であるとされている。乳幼児用調製粉乳の微生物規格では、サルモネラとエンテロバクター・サカザキが対象となっている。CODEXで食品の微生物規格がリスク評価の結果を受けて科学的に設定されるようになり、乳製品に関わる病原微生物について今まさに国際的な議論が進められていることになる。乳およびその加工品における食中毒は、わが国の食中毒統計では、サルモネラ属菌(サルモネラ)および黄色ブドウ球菌が、その原因菌として重要であった。サルモネラは、集団事例では鶏卵のサルモネラ・エンテリティディスが重要であるが、乳およびその加工品においても古くから食中毒の原因菌となっている。リステリアもエンテロバクター・サカザキもわが国の食中毒統計ではこれまでほとんど登場していない。しかし、これらの菌は、ヒトに感染すると敗血症や髄膜炎を発症し、約20%程度の致死率を示す重篤な感染を起こす。そしてこれらは主に食品を介した感染を起こすことからCODEXでは、厳しい規格が議論されている。本稿ではリステリアとエンテロバクター・サカザキについて、それぞれの特徴とその制御についてまとめてみたい。

エンテロバクター・サカザキと乳児用調製粉乳

 2004年2月と2006年5月に、スイスのジュネーブのWHO本部において“乳児用調製粉乳中のEnterobacter sakazakiiに関するFAO/WHO合同専門家会議”が開催された。これらの会議において、E. sakazakiiの性質、疫学、乳児用調製粉乳からの感染リスクに関する科学的な考察がされ、本菌の乳児用調製粉乳汚染は乳児の感染及び疾患の原因となると結論された。健常人では本菌に曝されても不顕性で経過することがほとんどであるが、乳幼児、特に未熟児や免疫不全児、低体重出生児を中心として、敗血症や壊死性腸炎を発症することがあり、重篤な場合には髄膜炎を併発する。本症の感染経路については乳児用調製粉乳を介した感染例が多数報告されており、最も有力な感染経路として認識されている。
 本菌による新生児髄膜炎は1958年にイギリスで初めて発生が確認された12)。その後、世界各国で、主に散発的ではあるが、敗血症、壊死性腸炎、脳膿瘍を呈した症例が報告されている。発症数を年齢別に見ると、成人においても発生は報告されているが、明らかに新生児・乳幼児の発生が多い。Muytjensらは、35カ国で製造された乳児用調製粉乳計141検体を収集し、52.5%で腸内細菌科の細菌汚染があり、このうち20検体 (14.2%)よりE. sakazakiiを検出している7)。Leuscher (2004)らの報告においても58検体中8検体(13.8%)からE. sakazakiiは検出されており5)、本菌は乳児用調製粉乳を広く汚染していると思われる。一方で、汚染菌数については100gあたり0.36〜66個と極めて低い。

エンテロバクター・サカザキの疫学

 E. sakazakiiは動物における発症例はこれまでに報告されていない。本菌は土壌、水、動物、汚水、ヒト糞便等から高頻度に検出されるが、一方、トウモロコシ、キュウリ、レモンなどといった果実・野菜からもしばしば検出される。このことから、同じ腸内細菌科に属する大腸菌とは異なり、本菌は植物や環境を生息場所として存在していると考えられている4)。これまでに本菌が分離された動物としては、ラットやハエが挙げられるが、ウシなど家畜からの検出に関する報告は少ない。一方で、ハエは重要な伝播体として関与していると推察されている。こうした節足動物が物理的に本菌を媒介することで食品汚染を引き起こし、これを喫食することで感染・発症している可能性が一つの感染経路として想定される。
 本菌は、多岐にわたる食品から分離されている。また、乳児用調製粉乳はその汚染実態から感染源として重要性であることは先に述べたとおりであるが、溶解調乳時の2次汚染による事例も2001年に報告されている1)。実際に乳児用調製粉乳自体はE. sakazakiiの汚染を受けていないにもかかわらず、調乳に用いたブレンダーから本菌が検出された報告もある9)。従って本菌の食品汚染は製造環境あるいは調製工程における二次汚染がかなりの部分を占めている可能性が高い。
 わが国における市販乳幼児用調製粉乳の本菌の汚染実態ならびに本菌感染症に関する情報収集と国内の発生状況に関する調査は厚生労働科学研究班により進められている。国内において本菌感染症は新生児多発性脳膿瘍の1例が確認されているが、その感染経路は特定されていない。また、2005年から開始された国内の市販の乳児用調製粉乳の汚染実態調査では、各年度2〜4%の検体から本菌が検出されている。2006年、2007年の本菌の市販乳児用調製粉乳の汚染菌数はいずれも333g中に1個と試験法の検出限界値である。おそらくこの菌数レベルで当該製品を摂取したとしても感染が起こる可能性は低いと思われるが、未熟児や低出生体重児においては感染の可能性は否定できない。

エンテロバクター・サカザキの制御

 国内の市販の乳児用調製粉乳においてもわずかに本菌の汚染があることが確認されていることから、その対策を検討することは重要である。調査により得られた汚染菌数の調製粉乳を摂取したとしても、感染の可能性は低いと思われるが、たとえ低い菌数の汚染でも、飲み残しが長時間室温に放置された場合には、急速に菌が増殖することも知られている。乳児用調製粉乳は、缶に密封され常温で流通していることから、多くの一般消費者は、他の缶詰製品と同様に調製粉乳が無菌製品であると考えているようである。実際は乾燥した食品を無菌化することは技術的に困難であり、市販の乳児用調製粉乳は無菌ではない。一方、E. sakazakiiは、他の菌に比べ、乾燥状態での生残性が高く、粉乳中では数年にわたりその菌数を維持することが確認されている。CODEXでは、乳児用調製粉乳のリスク評価の結果から、サルモネラとE. sakazakiiを対象として、表1のような規格基準を設けることで議論が進んでいる。加えて衛生的な取扱いが正しく行われたかの汚染指標の基準も示している。表1の微生物規格を担保した場合と同等なリスク管理オプションとして、WHOは、70℃以上の高温のお湯を用いた調乳を推奨している。本菌の国内の汚染菌数レベルは低く、乳児用調製粉乳の規格基準が設定されるまでは、このオプションを採用することにより、現在CODEXで検討している微生物規格を実施したのと同じレベルでE. sakazakiiの感染リスクを低下することになる。そこで、母子手帳および乳児用調製粉乳の製品には、70℃以上の高温水で調乳を行うことを明示し、特にリスクが高いと思われる新生児集中治療室を中心にその徹底を行っている。
 E. sakazakiiは、環境に広く分布しており、乾燥に対して強いことから、乾燥した形状の食品からしばしば分離される。乳児用調製粉乳の製造にあたっては、その原材料から本菌を排除し、必要な場合は一度溶解し殺菌処理を行うことにより、製造工程や環境から本菌の最終製品への混入を防ぐ必要がある。消費者は、粉乳は密封した缶に入ってはいるが、無菌製品でないことを理解し、70℃以上のお湯を使い調乳し、室温に放置した飲み残しを与えないように注意することが重要である。

表1.CODEXで検討されている乳幼児用調製粉乳の微生物規格

リステリアの疫学

 リステリア症は、Listeria monocytogenes(リステリア)を原因とする感染症で、ヒトや動物に敗血症、髄膜炎など重篤な症状を起こし、発症者の致命率は20〜30%と高い。本感染症が食品衛生上特に注目されるようになったのは、1980年代からで、欧米諸国で野菜サラダ、乳製品、食肉加工品などの食品を介したヒトにおける集団感染が相次いで報告されたことによる。1983年アメリカで牛乳、1985年にはナチュラルチーズによる集団発生が報告され、乳および乳製品の汚染は国際問題となった。これを受け、1988年1月に国際酪農連盟が暫定的な試験法を示した。検査法の整備により、フランス、スイス、デンマーク産のナチュラルチーズから高い菌数のリステリアが検出され、以後リステリアの食品汚染が世界的に注目されるようになった。
 リステリアは齧歯類の病原菌と考えられていた。その後、ヒツジ、ウシ、ウマなどの家畜に感染性があることが示され、ヒトでも症状を示すことが確認された。ヒトにおけるリステリア症の感染経路はリステリアによる汚染食品の摂取が主要な経路と考えられている。妊婦が汚染食品の摂取により感染した場合には垂直感染、産道感染を引き起こす。ヒトにおける本症はinvasive typeとnoninvasive typeの2型に分類される2) 。noninvasive type では潜伏期間は9〜48時間とされ、主な症状は発熱、筋肉痛、悪寒等の風邪様症状や吐き気、下痢などの胃腸炎症状で、これらの症状は感染初期症状とも考えられている。Invasive typeの場合潜伏期間は2〜6週間に及び、その為原因食品が特定されないことも多い。症状は頭痛、頚部の硬直、平衡感覚の消失、意識の混濁などの神経症状や敗血症、髄膜炎を示す。
 本症は健康な成人には軽い風邪様症状しか示さないことが多いが、高齢者、糖尿病・悪性腫瘍・AIDS(後天性免疫不全症候群)などの免疫不全、低下を示すものや乳幼児などのハイリスクグループでは敗血症、髄膜炎等の重篤な症状を引き起こし、致命率が20〜30%と極めて高い。妊婦が感染した場合には本人は軽い風邪様症状のみを示し、胎児の流産、早産を引き起こすことがある。

食品媒介リステリア症の概要

  感染初期の症状がはっきりしないこと、潜伏期間が長期であることから、リステリア症の感染経路を特定することは困難である。Ryserは、1997年までに発生した患者10名以上のリステリア集団事例をまとめ、検討を行っている11)。最も古い事例は1949年から57年にかけて東ドイツで牛乳およびその加工品を原因として発生したものとしている。この事例から1997年のイタリアで発生した事例まで計37件を一覧としてまとめている。そのうち1975〜97年までの23年間に、31件発生しており、単純にわり算しても、毎年1ないし2件の集団事例が発生していることになる。仲真の集計8) によれば1998〜2002年の5年間にリステリア集団事例は8件発生しており、近年も同様な頻度で集団事例は発生し続けていることになる。これら合計45件のうち、原因食品が特定できなかった事例は13件あり、リステリア症の原因食品の特定の難しさも示している。特定された原因食品を分類すると、乳および乳製品、食肉加工品、野菜類、およびその他と分類することが出来る3)

乳および乳製品によるリステリア症

 乳及び乳製品による主な集団事例を表2にまとめた。最も古いと思われる食品を介したリステリア症の集団事例は、ドイツにおける乳およびその関連食品からの事例である。第二次世界大戦終了後の復興期に、東ドイツのHalleの産科病院で新生児の死産が多数みられた。1952年までに、約100例が記録された。当初は他の細菌が疑われたが、Seeligerによりリステリアが原因であることが示された。未殺菌乳のみならず、サワーミルク、クリームそしてカッテージチーズなどが原因食品と疑われた。この一連の発生を検討していたPotelは、双子を死産した母親が出産前に摂取していた牛乳から分離したリステリアと、乳房炎の牛の牛乳から分離した株が同一であることを突きとめた。これがヒトにおける食品を介したリステリア症を直接証明した初めての例となった。当時、妊婦は闇市で未殺菌乳を手に入れており、この未殺菌乳が感染源となっていた。 1983年アメリカで発生したリステリア症は、特定のブランドの殺菌乳を原因として発生した。殺菌乳であったことから、牛乳の殺菌条件に問題があるのではないかと検討されたが、この条件でリステリアが生存しうるという結論にはいたらなかった。生乳以外の乳製品の事例については、その製造に殺菌乳を使っている場合は、その後の環境からのリステリアの汚染が主な原因と考えられている。
 発酵乳製品では、チーズはしばしば原因食品とされている。チーズには、様々な種類があるが、リステリア症の主な原因となっているのは、熟成後加熱処理を行わないで食べるナチュラルチーズと呼ばれる種類のチーズである。原因となったチーズ中のリステリアの菌数は高いことが多く、グラムあたり106CFUを越えることもある。原料乳にリステリアを接種して様々なタイプのチーズを製造して菌数の挙動を調べた実験によれば、カマンベールでは熟成により菌数が増加し、グラムあたりの菌数が106-7CFUを記録した。ナチュラルチーズには、食習慣により未殺菌乳を原料として用いる場合がある。フランスにおいては山羊の未殺菌乳を用いてチーズを作る習慣があり、加熱殺菌した山羊の乳を原料とすると味が低下するという。未殺菌乳中のリステリアの汚染については指摘されているところであり、食習慣と食品衛生のどちらを優先するかといった議論もある。

表2.リステリアによる乳および乳製品の主な集団事例

国内のリステリアによる食品汚染と集団事例

 1993年に乳及び乳製品のリステリア菌検査における検査法(衛乳169号)が示された。この検査法は広く用いられ、多くの食品のリステリアの汚染実態調査に用いられた。この検査法で行われた国内の食品の汚染に関する研究報告は34編ほどあり、これらの成績を集計した概説は論文としてまとめられている10)
 肉製品の汚染率は高い。市販生肉は、いずれの動物種の食肉も汚染頻度は高いが、汚染菌数は低く、通常は加熱後喫食する事を考えると、感染のリスクはそれほど高くない。魚介類は、1.5〜4%の汚染が見られる。非加熱喫食食品(reay-to-eat)は、低い頻度ながらもリステリア汚染が確認されている。この中には、ナチュラルチーズ、生ハムを含む肉加工製品、スモークサーモンなどが含まれる。稀ではあるが、これらの食品の一部からは高い菌数のリステリアが検出されている。一方、健康なヒトの糞便からリステリアは1.3〜1.5%分離されてくる。この数字は今後、この割合でヒトがリステリアを保菌しているのか、あるいは汚染食品の摂取による影響とみるべきかを明らかにする必要がある。
 非加熱喫食食品はリステリア感染で最も注目すべき食品であるが、その中で特にナチュラルチーズを原因とする集団事例はこれまで多数報告されている。国内のリステリア感染事例については、食品を介した事例はほとんど明らかにされていない。この中で唯一2001年に北海道で明らかとなったナチュラルチーズを原因とする集団事例が、リステリアの集団事例と思われる6)。この事例では、約107個/gの血清型1/2bのリステリア・モノサイトゲネスの汚染を受けたナチュラルチーズを喫食した86人中38名がインフルエンザ様症状と一部急性胃腸炎症状を示した。この事例では幸い患者は予後良好に推移した。血清型1/2bは、これまで海外で4事例の集団事例が報告されているが、いずれの事例も死者の報告はなく、おそらくこの血清型の菌株は弱毒型であったと思われる。

リステリアの制御

 リステリアは、多くの食品において数%の汚染が見られることが知られている。特に非加熱喫食食品は、リステリアの生菌を摂取するという意味で、感染のリスクがある。一方、国内におけるリステリア症の患者は、年間約80人と推定されており、人口100万人あたり0.65の感染割合で、決して多くない。FAO/WHOによる本菌のリスク評価によれば、リステリアは、菌数の高い汚染を受けた食品の喫食により感染を起こすと考えられている。従って、汚染を受けた食品が何らかの理由で感染が成立する程度の高い菌数とならないように食品を管理することが重要である。上記のリスク評価では、ヒトの摂取段階で100個未満/gの菌数のリステリアが感染を起こさない目安とされているので、食品におけるリステリアの菌数をこれ以下に維持することが重要である。ナチュラルチーズでは、汚染が発生した場合しばしば高い菌数になることが知られており、特に本菌の汚染には注意を払う必要がある。さらに、妊婦、高齢者、重篤な疾患患者など、リステリアに感染しやすい集団も存在するため、このような集団に属する場合は、本菌の汚染のおそれのある食品は加熱後摂取する必要がある。

<参考文献>

  • 1) Bar-Oz, B. et al., Enterobacter sakazakii infection in the newborn, Acta Paediatr., 90, 356-358 (2001)
  • 2) FAO/WHO, In Risk assessment of Listeria monocytogenes in ready to eat foods ? Technical report. “Microbiological Risk Assessment Series 5” FAO/WHO (2004)
  • 3) 五十君靜信, 食品由来のリステリア菌による健康被害, 食品衛生研究, 53,(4), 19-23 (2003)
  • 4) Iversen, C. et al., The growth profile, thermotolerance and biofilm formation of Enterobacter sakazakii grown in infant formula milk, Lett. Appl. Microbiol., 38, 378-382 (2004)
  • 5) Leuscher, R.G.K. et al., A medium for the presumptive detection of Enterobacter sakazakii in infant formula, Food Microbiol., 21, 527-533 (2004)
  • 6) Makino S. I. et al., An outbreak of food-borne listeriosis due to cheese in Japan, during 2001, Int. J. Food Microbiol., 104, 189-96 (2005)
  • 7) Muytjens, H.L. et al., Quality of powdered substitutes for breast milk with regard to members of the family Enterobacteriaceae. J. Clin. Microbiol., 26, 743-746 (1988)
  • 8) 仲真晶子, 低温下で増殖できる食品病原微生物 − 特にListeria monocytogenesについて − “食品のストレス環境と微生物” サイエンスフォーラム. 東京. 2004. p.33-51
  • 9) Noriega, F.R. et al., Nosocomial bacteremia caused by Enterobacter sakazakii and Leuconostoc mesenteroides resulting from extrinsic contamination of infant formula, Pediatr. Infect. Dis., 9, 447-449 (1990)
  • 10) Okutani A. et al., Overview of Listeria monocytogenes contamination in Japan. Int J Food Microbiol., 93. 131-140 (2004)
  • 11) Ryser E.T., Foodborn Listeriosis. “Listeria, Listeriosis, and Food Safety 2nd ed.” Marcel Dekker, Inc. New York. 1999. p.299-358
  • 12) Urmenyi, A.M.C. et al., Neonatal death from pigmented coliform infection. Lancet. 1, 313-315 (1961)


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