細野 明義(財)日本乳業技術協会 常務理事 信州大学名誉教授 細野 明義「乳酸菌の利用とプロバイオティクス」

乳酸菌の利用とプロバイオティクス

はじめに

 乳酸菌は乳酸を大量につくる細菌群の総称である。乳酸菌の中には発酵乳製品をはじめ発酵肉製品、発酵水産食品、酒類、醸造製品、発酵豆乳、漬物、果実加工品、パンなどの製造に関与するものも多く、人類は古くから乳酸菌の恩恵を受けてきた。さらに、乳酸菌はビフィズス菌と共に腸内細菌として棲みつき、ヒトの健康維持に大きな役割を果たしている。近年、微生物集団を解析するための分子生物学的手法が著しく進歩し、腸内細菌の多様な役割が明らかにされる中で、乳酸菌やビフィズス菌の役割に関する研究が一段と深化してきている。プロバイオティクスに関する研究も年毎に活発になされ、乳酸菌を利用したプロバイオティクスの重要性がより鮮明になってきている。データベースSciFinderに収録されたプロバイオティクスに関する論文数を図-1示した。年毎に論文数が増え、プロバイオティクスの研究が盛んであることがこの図からもわかる。
 本稿では改めて乳酸菌の基本を解説し、学術論文に示されたプロバイオティクスへの利用(応用)動向について説明する。

図1.プロバイオティクスに関する論文数の年次動向

1.乳酸菌の発見と特性

 パスツール(Pasteur, L., 1822-1895)が乳酸を生産する細菌を発見したのをきっかけに、19世紀末から20世紀の初頭にかけてチーズやヨーグルトなどから乳酸菌の多くが見出されている。すなわち、1873年にListerが酸乳からBacterium lactisを発見した。この菌は現在ではLactococcus lactisと呼ばれ伝統的なはっ酵乳やナチュラルチーズの菌叢を構成する乳酸菌としてよく知られている。続いて、Tissierがビフィズス菌を、またMoroが乳酸桿菌であるLactobacillus acidophilusを発見した。1904年にはヨーグルト飲用による不老長寿説を打ち立てたMetchnikoffがヨーグルト中の乳酸菌の分離と同定を行っている。その後、Orla-Jensenがヨーグルト乳酸菌の分類を系統化し、1919年までにThermobacterium bulgaricus(現在のLactobacillus delburueckii subsp. bulgaricusStreptococcus thermophilusといった乳酸菌)が見出され、今日ではおよそ270菌種もの乳酸菌が発見されている。
 周知のとおり乳酸菌は菌学的に定義された細菌名ではない。乳酸菌の概念は1919年にOrla-Jensenが、糖を発酵し、乳酸のみ、または乳酸・酢酸・アルコール・炭酸ガスを生成するグラム陽性の桿菌および球菌に対してLactobacteriaceaeという科名を適応したことが乳酸菌の定義づけの発端になっている。

[表1]主な乳酸菌群(属名)

現在では表-1に示すとおり乳酸菌は分類学的にはBacilli網、Lactobacillaceae目にほぼ合致することが判明しており、表-2に示した特徴を有している。これらの諸性質のうち、カタラーゼ陰性とは、過酸化水素を酸素と水に分解する酵素(カタラーゼ)を産生しないことを意味し、その菌が嫌気性菌であることを示している。嫌気性菌の中には酸素が少しでも存在すると生育が不可能になる偏性嫌気性菌と、酸素が存在していても生存できる通性嫌気性菌とがあるが、乳酸菌は後者である。運動性とは鞭毛によって能動的に細菌が動く現象をいい、乳酸菌ではこのような現象は認められない。内生胞子とは外部からのストレスが高まると増殖を止めて殻(スポア)をつくり、ストレスを逃れて休眠状態にある細胞体のことをいう。乳酸菌は通常スポアをつくる能力をもっていない。
 G+C mol%とは、DNAを構成する4種類の塩基のち、グアニン(G)とシトシン(C)の占める割合をパーセントで表したもので、細菌類はG+C mol%値により2つのグループに分けられる。すなわち、G+C mol%値が低いグループ(low GC group, 24〜50%)と高いグループ(high GC group, 50%〜)である。乳酸菌は前者であり、乳酸菌と並んでその優れた保健効果が論じられるビフィズス菌(Bifidobacterium属)は後者である。
 GRASとは、“Generally Recognized as Safe”の頭文字をとった言葉であり、乳酸菌を食品に利用する上で極めて重要なキーワードである。安全性の証明は簡単ではなく、長い期間にわたり人間が食べてきて健康上に問題を生じなかったとする経験こそが安全性を証明する上で説得力をもってくる。乳酸菌はヨーグルトのみならず多くの発酵食品をつくり出してきた中心的微生物であり、古くから人類がそれらを食べ、かつ病状を呈することはなかったとする経験的認識が成立っていることから、安全なバクテリアであるとの市民権を十分に得た細菌であるといえる。
  なお、表-2に示した特性の他に、グルタミン酸ならびにナイアシンを必須成分として要求するのも乳酸菌に共通する性質である。ビフィズス菌が酸素を強く嫌うのに対し、乳酸菌は多少酸素があっても増殖できる場合が多く、私たちのお腹の中だけではなく、漬物、味噌などの様々な伝統発酵食品にも数多く見出される。

[表2]乳酸菌の一般的性質

さらに、はっ酵乳やチーズの製造に使用されるなど棲息範囲がビフィズス菌よりも広いのが特徴である。
 一方、優れた保健効果を発揮するプロバイオティクス(後述)が大きな注目を集めている中で、乳酸菌と共にプロバイオティック バクテリアとしての中核をなしているのがビフィズス菌である。ビフィズス菌にはおよそ30もの種類があり、主な菌種としてBifidobacteriumbifidum, B. longum, B. breve, B.lactisなどがある。乳酸菌のように多量の乳酸をつくらず、ホスホケトラーゼを産生し、フルクトース-6-リン酸経路によってグルコースを分解してモル比3 : 2で酢酸とL(+)乳酸に変換し、少量のギ酸、エタノール、コハク酸を生成するが、炭酸ガス、酪酸、それにプロピオン酸を生成しないのが特徴となっている。上述したようにG+C mol%値が乳酸菌のそれよりも高いこと(57〜67%)を除くとビフィズス菌は表-2に示した条件を満たしており、その意味では乳酸菌とよく似ている。とりわけヒトのお腹で優れた保健効果を発揮するビフィズス菌は乳酸菌の仲間として論じられることが多いのはそのためである。乳酸菌もビフィズス菌も人間の体温と同じくらいの温度を好み、昔から人間の住む環境に良くなじんできた細菌であり、プロバイオティクスとして広く利用されている。

2.プロバイオティクスの定義

 プロバイオティクスの基礎的概念の樹立はノーベル賞受賞者でロシア生まれのメチニコフ(E.Metchnikoff, 1845-1916)の学説を嚆矢としている。
 メチニコフと同時期(1899)にフランスのパスツール研究所のTissierは下痢発症患児の糞便にビフィズス菌が少なく、健康児に多く存在することを見出し、また下痢発症患者にビフィズス菌を投与すると、著しく改善されることを認め、ビフィズス菌がヒトの胃腸の健康の上で重要な働きをしていることを提唱した。
 1960年代に入り、生体に有益な効果をもたらす物質(細菌も含む)に対しプロバイオティクスという言葉を確立させることがイギリスのParker博士によって提案されたが、1989年にイギリスの微生物生態学者、Fuller博士が「腸管フローラバランスを改善することにより動物に有益な効果をもたらす生きた微生物」と定義し、それが定着したかのように思われた。しかし、1998年になってGuarnerとSchaafsmaが「適正な量を摂取したときに宿主に有用な作用を示す生菌体」と定義することが提案された。この提案はプロバイオティクスを鮮明に説明しているとしてFAO/WHOのワーキンググループがプロバイオティクスの定義として採択した。有効性を消化管だけではなく身体全体に広げていて、より現実的であるとして今日ではこの定義が広く用いられるようになった。

3.プロバイオティクスの主な保健効果

 生活習慣病予防への国民の関心の高まりから今日、食品におけるより高い安全性や機能性の追及が活発になっている。その中にあって、乳酸菌やビフィズス菌を中心とした有用微生物についても、これらのもっている能力の追及と、食品への積極的な利用が展開されている。近年、環境汚染物質や食物由来の有害物質が生体に対して弊害をもたらすことが指摘されていることから、優れた保健食品の摂取は一層大きな意味をもっている。表-3にプロバイオティクスとして知られている主な乳酸菌とビフィズス菌を示した。
 プロバイオティクスには抗変異原性、腫瘍抑制作用、血中コレステロール低減作用、病原菌に対する拮抗作用、腸管内有害物質の低下作用といった腸内環境改善作用などが期待され、さまざまな研究が今世界中でなされている。また、これらの効果をもつプロバイオティクスを添加したヨーグルトはプロバイオティックヨーグルトと呼ばれ、機能性食品に分類されている。

[表3]主なプロバイオティクス乳酸菌とビフィズス菌 -出典:プロバイオティクス・プレバイオティクス素材の開発動向、食品と開発 40:45(2005)(US Probiotics http://www.usprobiotics.org)

(1)腸内菌叢の改善と整腸作用
 個人差があるにせよ、幼年期に確立した腸内菌叢は青年期、壮年期に入るとビフィズス菌は減少し、逆にアンモニア、アミン、インドール、フェノール、硫化水素などの有害物質を生産する大腸菌やクロストリジウムなどの細菌が増加して、一連の生活習慣病を引き起こす原因をつくっている。乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクスはこれら有害菌の増殖を抑え、結果的にこれら細菌が生産する有害物質の産生を抑制する。さらに、乳酸菌やビフィズス菌が産生する乳酸によって腸管内のpHが下がり、便通を円滑にさせることは周知の事実である。

(2)免疫賦活化作用とアレルギー抑制効果
 プロバイオティクス乳酸菌は腸管内において腸管免疫系や全身免疫系に影響を及ぼすことが数多く報告されている。腸管内には膨大な数の免疫細胞が存在する。最大のリンパ組織である腸管関連リンパ組織(GALT)では病原菌に対しては積極的な排除機能が働き、病原菌は排除される。一方、プロバイオティクス乳酸菌や非病原菌はGALTを形成するリンパ組織の一つであるパイエル板上のM細胞により体内に取り込まれ、M細胞の下部に存在する樹状細胞により捕らえられる。樹状細胞には微生物の分子パターンを認識するToll様受容体(TLR)と呼ばれるレセプターが存在し、主としてこのTLRの働きによって様々な免疫応答を行う。プロバイオティクス乳酸菌について知られているおもな免疫調節作用を表-4に示した。

[表4]プロバイオティクス乳酸菌の主な免疫調節作用 (参考文献4)より一部省略して引用

  また、我々の生活環境が衛生的になってきたことも一因とされているアレルギーは増加の一途をたどっている。アレルギーは免疫系のTh1とTh2細胞応答のバランスが崩れてTh2細胞応答が優位の状態になったときに起こると説明されている。花粉アレルギー、食品アレルギーそれにアトピー性皮膚炎はアレルギー症状の代表的なものとしてよく知られており、プロバイオティクスを用いたはっ酵乳を長期間摂取することによりアトピー性皮膚炎や血中IgEが低下することなどが多くの臨床試験から明らかにされている。その他、IgA産生の応答増進、細胞障害活性の亢進などプロバイオティクスのアレルギー抑制作用に結びつく知見も報告されている。

(3)抗変異原性と抗癌性
  HosodaらはLactobacillus acidophilus LA-2を用いたはっ酵乳を健康な成人男子(平均年齢32.6歳)に一日100g()摂取させ、摂取後5〜7時間に採取した糞便の変異原性を、はっ酵乳を摂取させなかったグループの糞便の変異原性と比較した。表-5に示すようにはっ酵乳の摂取によって個人差はあるが、全般的に糞便が示す変異原性は有意(p<0.05)に減少し、中には90%以上の減弱率を示す人もいることを明らかにしている。
 一方、プロバイオティクスが抗腫瘍作用を有していることに関しては多くの研究報告がある。例えば、Bifidobacterium infantis のペプチドグリカンをマウスに静脈注射することにより、腫瘍細胞の増殖が70%抑制されることが明らかにされている。また、C3H/He系オスマウスに対しE.coliやClostridium paraputrificumといった腸内細菌は肝臓腫瘍の原因をつくることが知られているが、B. longumやL. acidophilusの投与によってその腫瘍が抑えられることなども報告されている。

[表5]Lactobacillus acidophilus LA-2を用いて製造したはっ酵乳を摂取したヒトの糞便中の変異原性の変化

(4)下痢の改善効果
 下痢の原因として大腸における異常な運動性の亢進、ウイルスや病原菌による感染それに電解質や水分の異常な輸送などがあげられる。栄養不良や抗生物質投与による下痢症さらには小児下痢症などに対して乳酸菌が優れた改善効果を有していることは古くから知られている。乳酸菌が生成する乳酸や酢酸などの有機酸によって腸管内のpHを下げ、病原菌や腐敗物質生産菌の増殖を抑えることによって改善効果が発揮されると説明されている。

(5)血中コレステロール低下作用
 はっ酵乳の摂取が血中コレステロールの濃度を低下させることについての評価は「効果あり」と「効果なし」の二つに分かれているが、文献上では「効果あり」とする報告が多く、はっ酵乳を摂取することによる大方のコンセンサスが得られている。血中コレステロール低下の作用メカニズムはラットを用いた試験から説明されている。すなわち、体内に存在する大部分のコレステロールは肝臓内のHMG-CoA還元酵素によって合成されるが、乳酸菌の働きにより腸管での吸収阻害が起こり、これが引き金になってコレステロールから胆汁酸への異化作用が促進され、結果的に血中コレステロールが減少するとするものである。なお、腸管で吸収されないで存在するコレステロールの一部は乳酸菌の菌体に直接吸着して便として排泄されるとする実験的証明もある。

(6)その他の効果
 文献上で見出されるプロバイオティクス乳酸菌の保健効果として上述した効果の他に次のような効果が報告されている。Helicobacter pylori増殖阻止作用、炎症性腸炎の緩和作用、血圧降下作用、腎臓結石形成阻止作用、乳糖不耐症の改善作用、膣炎の緩和作用、口腔衛生改善作用などがある。

おわりに

  かつて食料が不足していた時代には、栄養補給(一次機能)が何よりも重要であったが、日本人の生活水準が向上するにつれて、次第に味覚や嗜好を満たすための二次機能が要求されるようになった。さらに、飽食の時代といわれる昨今は、食品を通じて生活習慣病(成人病)や老化を予防(三次機能)することが求められるようになった。
 1995年、Gibson and Robertroidは「結腸内の有用細菌の増殖を促進したり、有害細菌の増殖を抑制して宿主の健康に有利に作用する難消化性の食品成分」をプレバイオティクスと呼ぶことを提唱した。また、光岡は、「直接あるいは腸内細菌叢を介して免疫賦活、コレステロール低下、血圧降下、整腸、抗腫瘍、抗血栓、造血などの生体調節、生体防御、疾病予防、回復、老化制御など、生体に直接働く食品成分」をバイオジェニックスと呼ぶことを提唱した。つまり、バイオジェニックスとはプロバイオティクス、プレバイオティクス以外の機能性食品成分を意味している。
  20世紀、抗生物質が人類にもたらした恵みは計り知れないほど大きいものであった。しかし、一方、抗生物質に対する耐性菌の出現が新たな問題を引き起こしているのに対し、プロバイオティクスは抗生物質のように幅広い治療的効果はあまり望めないものの、疾病予防の上で大きな期待がもたれ、21世紀はまさにプロバイオティクスの時代であるとする指摘がなされている。「予防にまさる健康法はない」とする見方を根拠にした考え方といえる。今後においてもプロバイオティクスの安全性についても検証しつつ、より優れたプロバイオティクスとそれを用いた保健食品の開発に一層大きな期待が集まっている。

<参考文献>

  1. 細野明義:「発酵乳の科学」(細野明義編)、アイ・ケイ コーポレーション、pp.104-119, (2002).
  2. 外岡俊樹、細野明義:小児内科、39(8), 116-1165 (2007).
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  5. 細野明義:「がん予防食品開発の新展開」(大澤俊彦編)、シーエムシー出版、pp.311-320, (2005).
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  8. Hosoda, M., Hashimoto, H., He, H., Morita, F., Hosono, A., J. Dairy Sci., 745-749 (1996).
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  10. Gibson, G.R., and Robertroid, M.B.: J. Nutr., 125, 1401-1412 (1995).


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