(2)乳酸菌の保健効果

3. 乳酸菌のもつ生理機能

(1) 整腸作用
  腸管内には夥しい数の腸内細菌が棲息し、成人でおよそ100種類、総細菌数は100兆個と言われている。100兆個の細菌を長さで表現すると、細菌の長さを約0.2μmとした場合、地球のおおよそ半周に相当する。この膨大な数の細菌は幼児から老年期に至る生涯を通じて恒常性を保ちながら維持される。しかし、その菌叢は食生活、環境、疾患、ストレスなどに大きく依存しているため加齢と共に変動する。通常、ビフィズス菌や乳酸菌といった善玉菌は加齢と共に減少するが、食物の消化と代謝を通じて宿主に対してエネルギー、アミノ酸、糖、ビタミン等を供給すると共に、乳酸やバクテリオシンなどを生産して病原性細菌の増殖を阻止する。さらに、栄養の争奪によって病原性細菌を主叢とする非定住性細菌のコロニー化を防いだり、外部から侵入する菌群に対しても定住化を阻み、抗菌性物質や静菌性物質を生産して生体防御の機能を発揮する。腸管乳酸菌としてLactobacillus acidophilus、Lb.leichmanii、Lb.plantarum subsp. mablis、Lb. casei subsp. alactosus、Lb.fermentumなどの乳酸桿菌やStreptococcus faecalisといった乳酸球菌が知られている。特に、乳酸桿菌はビフィズス菌の安定化、尿中インジカン、フェノールそれにパラクレゾールの低減化に貢献している。

(2)抗菌性
a. 有機酸ならびにH2O2
 乳酸菌が発揮する抗菌性は、乳酸菌による(1)乳酸ならびに酢酸、プロピオン酸といった短鎖脂肪酸の生成、(2)栄養成分の争奪、(3)酸化還電位の低下作用、(4)嫌気条件下での過酸化水素の生成、(5)バクテリオシンのような抗菌物質の生成などの要因によって発現される。
 乳酸の生成はpHの低下を惹き起し、結果的に多種多様の他種細菌の増殖を抑制させる。酢酸はStaphylococcus aureus 、Escherichia coli 、Bacillus cereus といった食品汚染菌に対し顕著な抗菌性を発揮する。
 また、乳酸菌は酸素存在下でフラビン酵素の介在によって過酸化水素(H2O2)を生成する。H2O2は化学的に不安定なラジカルを生成させ、細菌の細胞膜脂質の酸化を促進し、細胞膜での物質透過性を増大させる。結果的に細胞内での酸化反応が異常に増大し、核や細胞タンパク質が本来の機能を消失させて細胞を死に至らしめる。乳酸菌によるH2O2の生成は特に、腟炎予防の上から極めて重要な意味をもっており、外陰部にヨーグルトを塗布したり、H2O2生産性の乳酸菌を経口投与することによって腟炎を完全治療させる臨床的効果を有している。

b. バクテリオシン
 乳酸菌が生産するバクテリオシン(bacteriocin)の大半はプラスミドに存在し、これまでに多数のバクテリオシンが見出されてきている。バクテリオシンは(1)小分子熟安定性バクテリオシン、(2)高分子熱不安定性バクテリオシン、(3)アンチバイオティックスに大別される。

(3)免疫賦活化作用
 免疫賦活化作用は乳酸菌が有する生理機能の中でもっとも主要なものの一つである。乳酸菌が免疫応答の向上や免疫担当細胞の活性化、さらには免疫担当細胞を刺激するγ-インターフェロンやインターロイキン1ならびインターロイキン2と呼ばれるサイトカインを生産することが明らかにされている。免疫担当細胞には骨髄から胸腺を経て生産されるT細胞(Thymus derived cells)、骨髄に由来するB細胞(Bone marrow derived cells)、マクロファージそれにナチュラルキラー細胞などがある。
 一方、消化管内での非自己物質である抗原の排除は消化管のリンパ組織を介しての免疫機構によって行われる。しかしながら、多様な種類からなる抗原や共生微生物もしくは病原性微生物がその免疫機構の網の目をくぐり抜けて病状を惹起させる。こうした病状の惹起に対する予防効果として乳酸菌による免疫刺激作用がある。すなわち、人体におけるサイトカイン生産に及ぼす乳酸菌摂取の効果についていくつかの報告がなされている。ラット骨髄由来の単核貧食細胞をE. faeculisから分離したリポタイコ酸と共に培養することによりγ-インターフェロンの産生が高まることや、マウス卑臓細胞中のマクロファージやパイエル板をLb. gasseriの菌体で刺激することによりγ-インターロイキンが、またLb. lactis subsp. cremoris の生産するリン多糖類でラット卑臓マクロファージを刺激することにより、γ-インターフェロンやインターロイキン-1の産生が増大することなどが報告されている。



(4)抗変異原性と抗腫瘍性

a. 抗変異原性
 食品(およびその成分)中には変異原性物質や発癌物質に対してその作用を減弱させる性質のあるものが多々見い出されている。変異原性物質を減弱させる物質(抗変異原性物質)は通常次の二つに分けられる 。その一つは変異原性物質に直接作用し、その変異原性を減弱または不活化させる作用をもった変異原不活化因子(desmutagen) であり、もう一つは細胞に作用して細胞の突然変異誘発を著しく低下させる作用をもった抗突然変異原因子 (antimutagen) である。これまでに明らかにされてきた変異原性物質を減弱させる物質では変異原不活化因子が圧倒的に多い 。
 ところで、乳酸菌が変異原不活化作用に際立って優れていることは筆者らの研究からも明らかなところである。具体的には、各種乳酸菌を用いて調製した発酵乳が変異原性をもつ4NQOやAF2 、各種アミノ酸加熱分解物 、各種スパイスエキス 、N-ニトロソ化合物、アフラトキシン 、加熱醤油 等に対し、抗変異原性のあることをSalmonella typhimurium SD510株やE. coli B/r WR2 trp-hcr-を指標菌に用いて明かにしてきた。一方、発酵乳(乳酸菌)が in vitro のみならず in vivo でも抗変異原性を発揮していることの確認は極めて重要と思われれる。筆者らは先ず、ラット(Wister系雄、8週齢)にTrp-P1 投与(一匹当たり2mg)と共に、ダデイヒから分離したLb. casei susp. casei R-52 菌体を市販飼料に添加(1%ないし9%)して与え、投与開始後4日目の糞と尿中のTrp-P1の量を調べた。その結果、図-1 に示すようにTrp-P1 投与後の糞便中のTrp-P1の累積値は、コントロール群、1%乳酸菌添加群、9%乳酸菌群共に24時間以内に殆どが排泄され、24時間および48時間の間では僅かな量しか排泄されないことが認められた 。また、尿中のTrp-P1 の累積値では9%乳酸菌添加によってTrp-P1 の排泄量が有意(p < 0.05)に増加した。

b. 乳酸菌菌体による変異原性物質の結合
 乳酸菌の菌体が様々の変異原性物質や発癌性物質を結合させる事実は乳酸菌の諸機能の中でも興味深いものの一つである。筆者らは Streptococcus faecalis IFO12965の細胞壁とアミノ酸加熱分解物であるTrp-P1、 Trp-P2、Glu-P1とを混ぜた後、その上澄液中のTrp-P1、Trp-P2、Glu-P1の濃度が極端に減少する事実を認めた。この顕著な減少を詳細に検討することによって次のことが明らかになってきた。(1)多くの細菌の細胞壁が変異原性物質(発癌性物質も含む)と結合する性質を有しているが、とりわけ乳酸菌の細胞壁にこの性質が顕著に見い出され、かつ結合能も他種細菌に比べて高い。(2)細胞壁画分のうち、ペプチドグリカンにその性質が見られる。(3)乳酸菌の死菌体でもその能力を有しており、生菌と死菌との間の結合能に有意な差が認められない。(4)結合は瞬間的に起こり、かつ安定な結合を保つ。(5)結合に際し、SDS (sodium dodecyl sulfate) との拮抗性が認められる。などである。

c. 腫瘍抑制作用
 乳酸菌の腫瘍抑制作用に関しては多くの研究報告がなされてきた。乳酸菌の示す腫瘍抑制作用は腫瘍生成関連酵素の不活化作用であったり、免疫刺激作用である。例えば、ヤクルト中央研究所の研究陣によるLb. casei LC 9018 の抗腫瘍作用に関する一連の研究は乳酸桿菌のもつ優れた癌予防効果を証明している点で特記すべき業績である。Sarcima-80 や L1210 白血病細胞を移植させたマウスに乳酸桿菌を腹腔内処理を行なうことによりそれらの腫瘍細胞が顕著に抑制されることを明らかにした同研究陣の功績は、この分野における萌芽的研究として評価される。さらに、Lb. casei LC 9018 の投与が腹腔内マクロファージの酸性ホスファタージや貧食細胞を増強させることを認めると共に、ナチュラルキラー細胞活性の増大、特異抗体産生の増強、フリーラジカル生成抑制、癌の転移抑制、T 細胞増殖刺激、アジュバンド効果の増強、細胞毒性の減弱、サイトカイン産生の増大 などの多面的な機能を有していることも明らかにされている。

(4)血清コレステロール低減作用
 冠状動脈硬心臓病(CHD)は自覚症状を伴わないで30年〜40年の長い期間に除々に進行する心臓疾患である。CHDの症状が進行してくると、動脈に繊維塊が形成され血管を細くさせ、血流の円滑さを低下させ結果的に血圧を上昇させる。さらに、血管が完全に塞がる事態が心臓内で起こると、心筋内での血流が止まり、その部分の筋肉の壊死が誘発される。それに伴って、血管も脆弱にあり、血圧の上昇により血管が破裂する事態が惹起され、死を招くと説明されている。CHDの発病原因には遺伝説、老化説、環境説の三つが挙げられている。前二者に対しては防御が不可能であるが、環境要因による発病に対しては対応が可能である。ここ20年間来、食事、喫煙、運動量の多寡、ストレスなどが生活習慣病の原因になっており、特に食物摂取によって体内に蓄積される脂肪がCHDの最大原因の一つとされ、多くの研究がなされてきた。食物による脂肪の多量摂取は飽和脂肪酸やコレステロールの摂りすぎとなり、結果的に血清中の総コレステロールや低密度リポタンタク質(LDL)の量が高まり、CHDに陥るリスクが高くなるのである。
 現在まで血清中のLDL-コレステロールと総コレステロール含量を減らす試みが多くなされており、乳酸菌による低減作用についても検討がなされてきた。その結果、Lb. acidophilus の株の中には血清コレステロール低減作用をもっており、それらの株は消化管でコレステロールに直接作用して、血清コレステロールの低減を導いていることが判明している。筆者らは Lb. acidophilus TMV 0330、Lb. acidophilus TMC0343、Lb. casei TMC 0401 および Lb. casei TMC 0409 の菌体を別々にSDラットに対して高コレステロール食と共に与えた。その結果、いずれの菌株を投与しても血清コレステロール量の上昇は抑制され、投与14日目において一層抑制率が上昇することを認めている。 さらに、筆者らは、28株のL. gasseriの中からコレステロール結合性や胆汁酸脱抱合作用などの特性に優れた菌種を選定した際、胆汁酸を含む培地での増殖性やコレステロールとの結合性において供試の菌株に大きな差があり、全般的に12時間培養した菌体は 48時間培養の菌体に比べてコレステロールとの結合性が強いことも認めている(表-1)。



トップへ戻る 一覧へ戻る