食と免疫とプロバイオティクス(3)

プロバイオティクスについての質問状

 私は、プロバイオティクス(probiotics)とは、腸内フローラのバランスを改良し生体に良い影響を与える生菌のことであると理解している。プロバイオ菌とかプロバイオヨーグルトとか、このプロバイオティクスに由来する言葉が一般消費者にも受入れられ、そのからだに対する良い効果が認知されはじめたのは非常に良い事と思われる。しかしながら、同時に多くの人々から、このプロバイオティクスについての質問が急増していることも強く感じている。まずその代表的な質問を紹介しよう。
 その1は、なぜプロバイオティクスというのですかという質問である。これに対しては、アンチバイオティクス、すなわち抗生物質に対する言葉であるという本来のプロバイオティクスの定義で説明することにしている。
 プロバイオティクスは、アンチバイオティクスのように菌を殺してからだを守るのではなく、有益な菌を積極的に増やしてからだの健康を守るのであると答えている。古くからある言葉ではなく新しくつくられた言葉なのである。たとえば英語の辞書によると、pro-は「…賛成の」、「ひいきの」意味でその反対語はanti-であるから、生物をひいきするという意味でつくられたことがわかる。しかし、プロバイオによく似た言葉でプレバイオティクス(prebiotics)も使われはじめた。いうまでもなく腸内の有用細菌のみを増やしてやるオリゴ糖などの物質を指している。プロとプレのみが異なるだけであるので、多くの人は両者を混同してどちらかどっちかわからなくなってしまう。特に英語の辞書にはprebioticsの方は載っていて、生物(biotics)以前の(pre)という意味であると解説されている。生物以前すなわち単なる物質ですよと、生物をひいきするというprobioticsに対比させるのに取り上げられた言葉なのであろうか。
 以上のようにプロバイオティクスという言葉は、やや混乱気味であるが、しかし確実に我々の生活の中に入り込んできている。その語感がよいためであろうか。  質問その2である。プロバイオティクスは生きた菌であると多くの解説書には記載されている。しかし、生きた菌を摂っても胃で死んでしまうのではないか、また生きて腸に届いてもそこで増えることはないのではないかという質問も結構多いのである。この問題に対する解答は現在のところ出されていないが、生きていなくてもからだに良い影響を与えると著者は考えている。プロバイオティクス菌体のもっている物質の中には我々のからだに良い作用をするものが含まれていて、たとえ菌が死んでもこれらが作用すると思われる。
 質問その3である。ヨーグルトに含まれているプロバイオティクスは、どのような機構でからだに良い作用をするのかという質問である。もちろんその作用は確認されている訳であるが、大腸の中には1kgもの腸内細菌がいるのに、ヨーグルト中のその1/1000から1/10000ほどの量のプロバイオティクスがもともとから生息している腸内フローラを改善できるのかというのである。これについては恐らく、菌体中に含まれている物質の中に腸内フローラを整えるものがあると著者は考えている。なにしろヨーグルトを摂って体調がよくなるのは多くの人が実感しているし、その背景には科学的な真理があることは間違いないと考えられる。
 質問その4である。プロバイオティクス菌には色々な菌があるが、ヒトに対するその生理学的効果には差があるのかという質問である。たとえば免疫系に対する作用では、ヒトの免疫遺伝型の違いによりプロバイオティクスの効果は異なると考えられる。すなわち、ヒトとプロバイオティクスとは相性があり、ある人にとってよいプロバイオティクスも他の人には効果がないということもあるので、両者のこの遺伝的な相性の関係を明らかにする必要があると考えられる。将来この問題は極めて重要になると考えられる。
 以上の質問にはプロバイオティクスの本質が含まれているような気がする。

プロバイオティクスとは

 すでに述べたように、プロバイオティクスとは腸内菌叢のバランスを改良し生体に良い影響を与える生菌のことといわれている。従来プロバイオティクスの効果として期待されるもの、そして実際に効果の確認されたものを表1にまとめた。また、プロバイオティクスを広く解釈した場合の主な菌をまとめたものを表2に示した。現在この中でプロバイオティクスとして実際に市場に出ている菌は、ビフィズス菌、ラクトバチルス菌など腸内細菌由来のものが多い。

プロバイオティクスの抗アレルギー作用

 最近ヨーグルトが花粉症に効果があるとの話題が広まった。ヨーグルトの中に生きているプロバイオティクスに抗アレルギー作用があることが国の内外で報告されたものである。たとえば、プロバイオティクスとして用いられている腸内細菌について、アレルギー患者にはラクトバチルス菌が少ないことや、抗生物質を服用して腸内細菌叢が破壊された子供の場合にアレルギー患者の出現率が高いことなどからプロバイオティクスに抗アレルギー作用のあることが期待された。さらに、ラクトバチルス・ラムノーザ菌を妊婦及び出産した乳幼児に摂取させたところ、対照に比してアトピー性皮膚炎の患者が半減したとの報告がされて以来、そしてラクトバチルス・カゼイ菌について動物実験系でその抗アレルギー作用が確認されて以来、さらにそれ以外の多くの報告によってラクトバチルス菌やビフィズス菌の抗アレルギー作用は科学的な根拠を得た。

プロバイオティクスの抗アレルギー作用の機構

 では、プロバイオティクスの抗アレルギー作用の機構はどのようなものであろうか。少しアレルギーの発症機構について説明しておきたい。アレルギーとは免疫反応が異常になった状態ということができる。免疫反応とは病原細菌や病原ウイルスが体内に侵入した場合にこれを排除するしくみである。アレルギーとは免疫反応が外敵に向かわず、自分自身の器官・組織・細胞などに向って攻撃し炎症反応等を起こしてしまった状態である。
 免疫反応では、抗原提示細胞、T細胞、B細胞が関与し、IgG、IgAなどの抗体と微量のIgE抗体をつくり出す。これに対してアレルギー反応の場合は、同様の免疫反応が起こるが、T細胞として主としてTh2細胞が用いられ、IgE抗体が通常の免疫反応の100〜10000に達するほど高濃度でつくられることが大きく異なっている(図1)。そしてこの大量のIgEが体の表面に存在するマスト細胞と結合するとマスト細胞からヒスタミン、ロイコトリエンなどの炎症性物質が放出される。これがアレルギーの I 型反応であり、多くのアレルギーはこの反応によって炎症する。抗アレルギー活性をもつ成分の多くは、抗原提示細胞 T 細胞やマスト細胞に作用しアレルギー反応を抑える。
 プロバイオティクス乳酸菌の場合は、まず抗原提示細胞に作用し、この抗原提示細胞がTh1細胞を誘導し、そしてこのTh1細胞がγ-インターフェロンなどを放出しTh2細胞の出現を抑え、結果としてアレルギーを抑えるものと推定されている。プロバイオティクス乳酸菌が抗原提示細胞を刺激する機構はToll-like受容体を通じて行なわれる。すなわち、プロバイオティクス乳酸菌の表面にあるグラム陽性菌に特異的なリポタイコ酸あるいはペプチドグルカンが抗原提示細胞上にあるToll-like受容体-2(TLR-2)を刺激し、これを受けてIL-12などの免疫調節たんぱく質が抗原提示細胞から放出され、これがTh1細胞を誘導すると推定されている(図2)。実際にマウスを用いた実験でIgEがつくられるのが抑えられるのを確認した(図3)。
 しかし、この領域は研究が急激に進んでいる分野でもあり、プロバイオティクス乳酸菌の抗アレルギー作用にはこれ以外の機構があってもおかしくない。研究の展開を期待したいものである。

プロバイオティクスの免疫賦活作用

 プロバイオティクスの抗アレルギー作用については述べたが、これらには免疫賦活作用のあることが知られている。  たとえば、プロバイオティクスをヒトが経口的に摂取した場合、その貪食機能が賦活されることが報告されている。すなわち、プロバイオティクスが貪食細胞であるマクロファージあるいは好中球に作用し、その細胞を休止期から活動期へと移行させると考えられる。その結果すでに本稿の(1)で述べた免疫系の自然免疫の機能強化が行なわれ、感染防御へとつながるものと考えられる。
 また、プロバイオティクス乳酸菌によって、自然免疫の主要な細胞であるNK細胞の活性が増強されることも知られている。NK細胞はがん細胞を標的としているから、がん予防につながるものとして期待されている。

おわりに

 これまで3回にわたり、腸管免疫、腸内細胞菌そしてプロバイオティクスについて述べてきた。そのいずれの話題も、古くから我々の生活に及ぼす重要性から注目を浴びていたものである。しかしながら現在では、研究者のみならず一般市民もこの話題に興味をもつようになっている。免疫学・分子生物学といった最先端の科学が、これらの話題の中に横たわっていた多くの謎を解き明かし、我々が安心して、たとえば腸内細菌そしてプロバイオティクスに身を委ねることができるようになったのがその大きな原因である。また、乳酸菌をはじめとしたプロバイオティクスの効果を、ここに到って多くの人達が実感したためであろう。私はこのような潮流は人々の健康にはかりようのない貢献をするものと信じている。この分野の研究者、技術者は、その流れを止めることのないようその機能・安全に関する努力を一層つづけるべきであろう。

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