松本健治乳酸菌とアレルギー発症予防

乳酸菌とアレルギー発症予防

はじめに

 新しい治療法や予防法を樹立するためには、二重盲検法(Double blind placebo controlled trial)やランダム化対照比較法(Randomized controlled trial)などの客観的かつ科学的な方法で検討することが必須である。逆に言うと、これらの手法をとっていない報告(たとえば10例の患者にある薬剤をそのまま投与して、そのうち何例かでいくらかの効果が認められた等)は全く意味を持たない。科学的に正しい方法によって明らかにされた事実をエビデンス(evidence)と呼ぶが、このエビデンスに裏打ちされた事実に従って治療や予防を行うことが現代医学の基本である。
 プロバイオティクスとは1989年Fullerらによって「腸内細菌のバランスを変えることにより宿主に保健効果を示す生きた微生物」と定義された1)。その後プロバイオティクスは、1998年Salminenらによって「宿主に保健効果を示す生きた微生物を含む食品」と再定義された2)が、現時点ではSalminenらの再定義に従って「食品」を指す場合と、旧来通り微生物自体を指す場合があり、統一が得られているとは言い難い。そこで本稿ではこの混乱を避けるため乳酸菌に特定して、乳酸菌の投与がアレルギー発症に与える影響についてこれまでの「医学的なエビデンス」を元に私見を述べる。

プロバイオティクスとして用いられる菌種について

 アレルギー疾患に関与して論文上報告されている菌種は乳酸菌群のみである。乳酸菌には植物をオリジンとする乳酸菌群と動物をオリジンとする乳酸菌群が存在する。植物由来乳酸菌群は栄養が豊富でない所や栄養のバランスが悪い所でも生息可能であり、また高い塩濃度の環境でも生育が可能であることから、本邦では主として醤油や味噌、たくあんなどの製造に用いられる菌種である。植物由来乳酸菌群はブドウ糖・果糖・ショ糖・麦芽糖など多糖類を代謝して乳酸を産生する。それに対して動物由来乳酸菌群は乳中の乳糖のみを代謝してエネルギー源とする。動物由来乳酸菌群は高濃度の塩の存在下や栄養分の低い環境では成育できない。現在、実用化されている乳酸菌は通性嫌気性菌である乳酸球菌(Enterococcus faecalisなど)や乳酸桿菌(Lactobacillus acidophilusなど)と偏性嫌気性菌であるビフィズス菌(Bifidobacterium infantisなど)が主である。

アレルギー疾患の発症

 アレルギー疾患は多因子疾患で、複数の遺伝的要因(体質)と環境要因(たとえば乳幼児期の感染や腸内細菌叢など)の相互作用によって発症が制御されていると考えられている3, 4)。実際に本邦を初めとする先進工業国を中心にアレルギー疾患の罹患頻度は近年増加しており5)、その原因としては乳幼児期の生活環境が細菌的、ウイルス的に清潔になっていることなどが関与するとされている。

アレルギー児の腸内細菌叢の特徴

 一方、体内環境である腸内細菌叢が宿主の免疫系の成熟に強い影響を与えることは古くから知られていた6, 7)。1999年、Bjorksten らはEstoniaとSwedenの2才児の腸内細菌叢とその後のアレルギー疾患の発症の関係について検討し、アレルギー疾患児ではlactobacillusが少なく、好気性菌(特にcoliformsやStaphylococcus aureus)が多いことを報告した8)。彼らはその後、前方視的(prospective)な検討でアレルギーを発症する児では生後1ヶ月時でのenterococcusが少なく、また生後1才でのbifidobacteriumが少ないことを、逆に生後3ヶ月時でのclostridiumが多いことを報告した9)。また、Kalliomakiらは1才時にアトピーとなる児では生後3週間時点でclostridiumが多く、かつbifidobacteriumが少ない傾向にあることを報告した10)。これらの報告は、特に乳幼児期早期の腸内細菌が何らかの機序を介して宿主の免疫系に影響を及ぼし、アレルギー疾患の発症に強く関与する可能性を示唆していると同時に、乳幼児期早期の腸内細菌に人為的に介入することによってアレルギー疾患の発症予防が行える可能性を示唆した。

乳酸菌のアレルギー発症予防効果

2001年KalliomakiらはLactobacillus rhamnosus GG(LGG)をアトピー素因を持つ159名の妊婦およびその生後6ヶ月までの乳児に二重盲験法で投与し、乳酸菌がアレルギー疾患の発症を抑制する効果を有するかどうかを検討した11)。その結果、2才時の児のアトピー性皮膚炎の発症率は、乳酸菌投与群ではプラセボ(偽薬)群に比較して有意に低かったことが明らかとなり、乳酸菌の投与がアトピー性皮膚炎の発症を抑制する可能性が示唆された(図1)。その後、被験者は追跡調査され、生後4才の時点でも乳酸菌投与群ではアトピー性皮膚炎の発症頻度が低いことが報告されている12)

アトピー性皮膚炎の発症予防効果

 また、Kukkonenらは1,223名のアトピー素因を持つ妊婦に分娩前2-4週間、カプセルに入れたLactobacillus rhamnosus GG (ATCC53103)、L rhamnosus LC705 (DSM 7061)、Bifidobacterium breve Bb99 (DSM13692)、Propionibacterium freudenreichii ssp. shermanii JS (DSM 7076)の4種類の乳酸菌の合剤もしくはプラセボを二重盲験法で投与し、さらに新生児には乳酸菌合剤に加えてプレバイオティクス(乳酸菌の腸内増殖を助ける糖類)としてガラクトオリゴ糖0.8g、もしくはプラセボを生後6ヶ月間投与した13)。その結果、生後2才までの時点で、湿疹やアトピー性皮膚炎の発症は乳酸菌投与群でプラセボ群に比して有意に低いことが明らかとなった(表1)。

アレルギー発症予防の試み

 一方、Taylorらはアレルギー疾患を有する母親から出生した児231名にLactobacillus acidophilus (LAVRI-A1)とマルトデキストリン、もしくはプラセボとしてマルトデキストリン単独を生後6ヶ月まで二重盲験法で投与した14)。その結果、生後1才までの時点で、アトピー性皮膚炎の発症は乳酸菌群とプラセボ群の間に有意差は認められなかったが、IgE抗体が陽性のアトピー性皮膚炎の発症やIgE抗体の陽性頻度(アレルギー感作)は乳酸菌群の方が有意に多いことが明らかとなった(図2)。

アトピー性皮膚炎の発症予防効果

 これら3報のうちの2報では乳酸菌の投与はアトピー性皮膚炎の発症は抑制していたが、これらの報告でも血清中のIgE値には差が認められず、また最後の報告ではむしろ乳酸菌群の方がアレルギー感作率は有意に高かった。またその後の追跡調査でも他のアレルギー疾患(気管支喘息など)の発症にも差が認められなかったとの事実15)は乳酸菌が単純にインターフェロンγなどの産生を誘導し、IgE抗体の産生抑制を介してアトピー性皮膚炎の発症を抑制したとはとうてい考えられない結果であった。

複数の論文で相反する結果が得られた理由

 なぜ、ほぼ同じプロトコールで行われた厳格な二重盲験試験で異なる結果が得られるのであろうか? その理由としては、効果自体が非常に弱いために、有意差がつくほどの十分な症例数が無ければその有効性が検出できない可能性がある。またそれ以外にも、対象の人種差、年齢、食事の差を含めた元来よりある腸内細菌叢の差、環境因子(たとえば環境中のエンドトキシン量)の差などが関与している可能性が考えられる。また、乳酸菌の種類によってもその効果に差がある可能性が示唆される。

乳酸菌が宿主に影響を与える機序について

 乳酸菌の投与が生体に与える影響は様々であるが、その細胞レベルでの作用機序に関しては不明な点が多く残されている。Neishらは非病原性のSalmonellaが生菌の状態でのみヒト腸管上皮細胞を炎症性サイトカインで刺激した際の転写因子の活性化を抑制することを報告した16)。この事実は炎症性腸疾患や食物アレルギー患者における乳酸菌の作用機序として重要と思われる。またHallerらはヒト腸管上皮細胞を非病原性腸内細菌(Lactobacillus johnsonii)や腸管病原性大腸菌で刺激したのちに末梢血単核細胞と共培養する系を用い、非病原性腸内細菌で刺激した腸管上皮細胞と共培養した末梢血単核細胞は炎症性サイトカインだけでなく大量の抑制性サイトカインであるTGF-βが産生されることを報告している17)
 一方、in vitroで末梢血単核細胞やマクロファージを乳酸菌で直接刺激し、そのサイトカイン(特にインターフェロンγ)産生能を基準として菌種を評価したり臨床効果の機序と考えることには大きな矛盾があると思われる。これは明かに敗血症モデルであり、乳酸菌の投与で生体内で起こる現象を模倣しているとは考えにくい。この系ではアレルギー反応抑制性のサイトカインの産生だけでなく、大量の炎症性サイトカインの産生が認められることはよく知られており、都合のよいサイトカインのみを測定して生体内での反応のすべてを推察することは適切とは考えにくい。実際の腸管上皮は常に細菌に暴露されながら、炎症を惹起しない機構を有している。
 生体レベルの検討では、Pessiらはアトピー性皮膚炎患児に乳酸菌を投与した際に患者血清中、あるいは末梢血単核細胞からのサイトカイン産生能には差が無く、血清中の抑制性サイトカインの増加が認められたことを報告している18)。さらにRautavaらは妊娠中の母胎に乳酸菌を投与することにより母乳中のTGF-βが有意に増加することを報告しており15)、乳酸菌の生体に与える効果に何らかの制御性T細胞が関与している可能性が示唆されている。しかし、もし強い制御性T細胞が誘導されたのであれば乳酸菌投与を受けた児ではアレルギー感作が減少するはずであるが、そのような所見は認められていない。現時点で、乳酸菌がなぜアトピー性皮膚炎の発症を抑制するかについてはほとんど不明なままである。
  今後この方面の研究が進展することは、乳酸菌の作用機序の解明だけでなく、様々な疾患の病態の解明にも繋がると思われる。

乳酸菌とはっ酵乳

 今回示した医学的研究はすべて乳酸菌そのものをカプセルに詰めて母親に、また、カプセルをはずして児に与えられて得られた結果であり、はっ酵乳(たとえばヨーグルト)を投与して得られた結果ではない。つまり、乳酸菌そのものに何らかの有益性があったとしてもそれを用いたはっ酵乳に同様の効果があるかどうかは不明である。また、どの乳酸菌の菌種の有益性が高いのか、生菌が良いのか、死菌の方がよいのか、という点についても未だに統一的な見解は得られていない。

腸内細菌と宿主の相互作用

 これまでに様々な薬剤とその薬剤に対する感受性(有効性)と副作用の発現が宿主の様々な遺伝子の多型(体質の個人差)によって制御されていることが明らかとなっている。これと全く同様に、腸内細菌叢を含めた環境因子の影響にも遺伝的に制御された個人の体質が大きく関わっていることが明らかとされてきており、現在この分野の研究はGene-Environment Interaction(遺伝子-環境相互作用)と呼ばれ注目されている。乳酸菌に対する反応性も全く同様で、たとえば同じように乳酸菌を投与しても皆が同じように反応するとは限らない。その際に重要なことは、どのような個体に有効で、逆にどのような個体に無効であるかをきちんと検証することである。このように、個人の体質を調べて、その個人個人に合った治療予防法を行うことをオーダーメイド治療とよぶ。

おわりに

 ノーベル賞を受賞したロシアの科学者Elie Metchnikoffは1900年代初頭にブルガリアの住民が長寿であることに着目し、彼らがヨーグルトを頻回に摂取するためではないかと考えた。この観察は約100年を経て現在の我が国における巨大なマーケットを生み出す起点となっている。しかし、腸内細菌や乳酸菌の生体に与える影響の研究は始まったばかりであり、主に乳酸菌自体(はっ酵乳ではなく)の臨床的な効果の検討が先行しているのが現状のように思われる。特にマウスを用いた検討では、その結果はマウスの種(strain)に大きく影響されるし、ヒトとマウスの腸内細菌叢は大きく異なる。そのため本稿ではあくまでヒトでの研究に絞って概説した。換言すれば、マウスで効果があった乳酸菌がヒトにも効果があるであろうとする好意的な解釈によって、検討されてもいないはっ酵乳に対する希望的評価が一人歩きする事を意図的に避けた。
 はっ酵乳は多くの現代人がほとんど毎日摂取する食品である。であるからこそ筆者はその有効性を科学的にきちんと検証を行うことが将来的に是非とも必要であると考えている。極めて限られた人数に対するOpen Trial(ランダム化や盲検法でない方法)や被検者の主観的な感想などだけで意図的な判断をすることは某テレビ番組のやり方と大同小異である。また、しばしばコマーシャルなどで見かける「免疫力を強化する」や「免疫を活性化する」等と言った表現は免疫学的には決して適切とは言い難い。即ち免疫系に影響を与えるのであれば、どのような免疫応答に影響を与えたかを明らかにしなくてはならない。  この分野の今後の研究が進展し、アレルギー疾患の発症率が低下する日が来ることを期待してやまない。

<参考文献>
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  66:365-378, 1989
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  J Nutr 80:S147-171, 1998
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7 )Macpherson AJ, Harris NL: Interactions between commensal
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17)Haller D, Bode C, Hammes WP, et al: Non-pathogenic bacteria
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18)Pessi T, Sutas Y, Hurme M, et al: Interleukin-10 generation in
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