“乳酸菌”って、どんな菌?-分かりやすい基礎講座-(その1)

はじめに −食品の機能と乳酸発酵食品−

 食品には3つの機能があるといわれています。第1は私たちの生命を養う栄養機能、第2は嗜好性にかかわる香味や刺激などの感覚機能、第3は健康の維持と増進に役立つ生体調節機能です。ヨーグルトを例にとって考えますと、原料の牛乳に豊富に含まれる良質なタンパク質やビタミン、ミネラル類は、近ごろの私たちの食事にやや不足がちな栄養素を供給します。カルシウムはその代表的成分といってよいでしょう。また、ヨーグルト特有の風味や舌触りは日本人に全般的に好まれて、このタイプのはっ酵乳製品が広く愛好されていることはご承知のとおりです。栄養価値がすぐれていて、しかも美味しいから人気があるというのは、食品としてたいへん好ましいことです。
 ところで最近は、食品の第3の機能に特に強い関心が寄せられています。これは健康長寿を願う現代社会において当然の趨勢と思われますが、この頃は、あの食品は身体に良い、この食品は身体に悪いと決めつける単純な食品情報・健康情報が氾濫している気がします。マスコミ情報等のなかには、健康に好ましい効果を発揮すると考えられる含有成分を専門的な学術用語で示して、しばしば消費者がその意義をはっきりと理解できないまま、身体によいと信じ込んでしまう場合も少なくありません。私たちは、個々の食品が健康に及ぼす影響を的確に判断できる知識を身につけることが大切だと思います。
 乳酸菌と乳酸発酵食品は、ずっと昔から健康の維持と増進に役立つといわれてきました。高名な科学者メチニコフが「ヨーグルトによる不老長寿説」を唱えて、トルコ原産のこのはっ酵乳が世界的に普及するきっかけをつくったのは20世紀初頭のことでした。その後、科学的研究が進んで、乳酸菌と乳酸発酵食品がいろいろな面で私たちの健康に好ましい影響を及ぼすことが次第に明らかになり、それを解説した書物や小冊子もたくさん刊行されています。しかし、専門的知識が蓄積され深まるほど、他の分野の人々には難解になる傾向があるのはやむを得ません。今回、編集委員会の求めに応じ、乳酸菌と乳酸発酵食品の健康効果の理解に役立つことを願って、“乳酸菌”について基礎的な解説を試みました。なお、“ビフィズス菌”は乳酸菌とは異なる種類の細菌ですが、はっ酵乳・乳酸菌飲料に広く利用されている重要な菌ですので、必要に応じて補足させていただくことにします。

T乳酸菌の生育

1.微生物界における乳酸菌の位置づけと定義

 乳酸菌は、微生物に属する細菌の一種であることはご存知の通りです。
 私たちが日頃よく口にする“微生物”という言葉は、顕微鏡の助けを借りなければ肉眼で見えないような微小な生物に与えられた総称です。細菌、酵母、かび(糸状菌)、微細藻類、原虫などはすべて微生物に属します。また、ウイルスも便宜的に微生物の仲間として取扱われています。
 微生物の代表ともいうべき細菌(バクテリア)は、約35億年前に現われた地球上で最も古い生物とされています。生物界の系統進化についてはいくつかの説がありますが、いずれにしても地球上の生命の起源はただ1つであり、遺伝子レベルで見ればヒトの遺伝情報も乳酸菌の遺伝情報もまったく同じ記号で書かれています。
 “細菌”は、外側にかたい細胞壁をもつ単細胞の微生物で、通常は1個の細胞が2個に分裂する二分裂法で増殖します。その大きさは0.5〜10μm(マイクロメートル)程度です。1μmは1000分の1mmですから、とても小さい生物であることがお分かりになると思います。基本的な形態は、球状、桿状、らせん状ですが、細胞が集まって特定の形をつくるものもあります。細菌の遺伝を司る核物質(DNA)は染色体構造をとらず、裸のままで細胞内に分散しています。このような原始的体制を残した生物は原核生物と呼ばれて、動物、緑色植物、真菌(かび、酵母)などの真核生物と細菌を区別する基本的な特徴となっています。
 これまでに記録された現存生物の種(生物分類の基本単位)のおおよその数は、約290万種といわれています。このうち、哺乳類で記載されている種の数は約4500種、細菌を中心とする原核菌類の既知の種の数もほぼ同数の4800種と報告されています。ただし、地球上の哺乳類については事実上100%が既に知られていますが、細菌で記載されている種は推定総菌種数の5〜10%程度、研究者によっては1%以下と考えられており、いまのところ分離・培養されていない未知の細菌が圧倒的に多数を占めていることは確かです。
 細菌のなかには、ヒト、家畜、作物などに病気を引き起こす有害なものがあり、また食べ物を腐らせる腐敗菌も人々に嫌われますが、一方で、人類は食品を貯蔵する手段として、あるいは食品の素材自体には存在しない独特の味や香りを付与する方法として、細菌をはじめとする微生物の力を巧みに利用してきました。実際に、微生物による発酵食品は、現在の進んだ技術でも化学的に合成できない微妙な香味を有する点に特徴があり、私たちの食生活を豊かにしてくれています。その代表的な細菌が乳酸菌であるということができます。
 “乳酸菌”は、炭水化物(糖類など)を発酵してエネルギーを獲得し、多量の乳酸を生成する一群の細菌の総称です。量の多少を問題にしなければ、乳酸を生成する細菌はたくさん存在するのですが、乳酸菌は通常、消費した糖類から50%以上の割合で乳酸を生成する細菌と定義されています。細胞の形態から球菌と桿菌に大別されます(図1参照)。細菌の基本的な識別法であるグラム染色で陽性を示し、カタラーゼ(過酸化水素を分解する酵素)をもたず、芽胞(内生胞子)を形成せず、一般に運動性がないという共通的特徴があります。乳酸菌は酸素の存在する環境でも増殖できますが、どちらかといえば酸素の比較的少ない環境を好みます。あとで述べるように、乳酸菌の増殖には多くの種類の栄養素が必要であり、そのため乳酸菌は主として動植物界や食品など、人間の生活圏を中心に分布しています。

2.乳酸菌の種類と分布

乳酸菌という用語は、ある一種類の細菌を指すわけではなく、現在までに250種以上の種が正式に認められています。したがって、個々の乳酸菌を区別するには、多少面倒ですが、学名に頼らざるを得ません。生物の体系的分類においては、動物でも、植物でも、細菌でも同じように二名法が適用されます。すなわち、ラテン語の属名と種の特徴を示す形容詞の2語を組み合わせて「種」を表現する世界共通の名称です。例えば、ヨーグルトの製造に広く用いられる2種類の乳酸菌のうち、通称でサーモフィルス菌と呼ばれる球菌の学名はストレプトコックス サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ブルガリア菌と呼ばれる桿菌の学名はラクトバチルス デルブリュッキー 亜種 ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)です。後者のブルガリア菌の学名の場合は多少補足説明が必要かも知れません。この菌は、昔からラクトバチルス ブルガリクスと呼ばれており、今でもこの名称は通用しますが、最近の分類学の進歩を踏まえて、遺伝的には同一視できる種のなかで、表面に現われる性質(表現形質)が多少異なる菌が存在するとき、亜種という表記法が用いられます。乳業のように昔から、微妙に異なる特徴をもつ乳酸菌を上手に使い分けてきた業界には、このように亜種として区別せざるを得ない菌が何種類も存在しています。

  菌属 菌種 主な用途
はっ酵乳用乳酸菌 ラクトバチルス
(乳酸桿菌)
ラクトバチルス デルブリュッキー 亜種 ブルガリクス チーズ、はっ酵乳、乳酸菌飲料
ラクトバチルス ヘルベティクス
乳酸球菌 ラクトコックス ラクチス 亜種 ラクチス バター、チーズ、はっ酵乳、乳酸菌飲料
ラクトコックス ラクチス 亜種 クレモリス
ストレプトコックス サーモフィルス はっ酵乳、乳酸菌飲料
ロイコノストック ロイコノストック メセンテロイデス 亜種 クレモリス バター、チーズ、はっ酵乳
腸管系乳酸菌
(*植物系乳酸菌)
ラクトバチルス
(乳酸桿菌)
ラクトバチルス アシドフィルス はっ酵乳、乳酸菌飲料
ラクトバチルス カゼイ
ラクトバチルス ギャセリ
ラクトバチルス プランタルム*
ラクトバチルス ブレビス*
ラクトバチルス ブフネリ*
乳酸球菌 ストレプトコックス フェシウム チーズ、はっ酵乳
ビフィズス菌 ビフィドバクテリウム ビフィダム はっ酵乳、乳酸菌飲料
ビフィドバクテリウム ロンガム
ビフィドバクテリウム ブレーベ
ビフィドバクテリウム インファンティス
ビフィドバクテリウム アドレッセンティス

 実用的な立場で、もう一つ注意すべきことは、「菌株」の重要性です。上記のように示された学名は、いうなれば私たちの使う姓名に相当します。しかし、世の中には同姓同名の人も存在し、当然個人差があります。風味のすぐれたヨーグルトをつくる、あるいは効果的なプロバイオティクス(腸内の微生物叢を改善することにより宿主に有益な保健効果をもたらす生きた微生物)として利用する際には、ある菌種に属する特定の菌株を使用します。菌株は、唯一無二のものであり、産業的には菌株が最も重視されます。菌株は、種名のあとに保管機関と番号、記号、分離者の名前などを付けて示します(例:ストレプトコックス サーモフィルス ATCC 19258、分類学上の基準株)。
 現在の分類体系では、乳酸菌は12属(以上)に分けられています。すなわち、桿菌としてはラクトバチルス(Lactobacillus)、カルノバクテリウム(Carnobacterium)、球菌としてはストレプトコックス(Streptococcus)、ラクトコックス(Lactococcus)、エンテロコックス(Enterococcus)、ペディオコックス(Pediococcus)、テトラゲノコックス(Tetragenococcus)、ロイコノストック(Leuconostoc)などです。本稿で取り上げる主な乳酸菌の種名を表1に示しました。
 乳酸菌は自然界に広く生息し、植物の表面、動物の体内、食品中に分布しています。食品で例を引きますと、はっ酵乳、乳酸菌飲料、発酵バター、フレッシュチーズ、熟成型チーズ、発酵肉製品(ドライソーセージなど)、発酵水産食品(馴れずし、糠漬など)、野菜・果実加工品(各種の漬物、発酵茶など)、穀実加工品(発酵豆乳、サワーブレッドなど)、清酒、ワイン、味噌、醤油などには、乳酸菌が存在し、あるいはそれらの加工・製造に乳酸菌が重要な役割を演じています。
 乳酸菌のなかには、作物→飼料(サイレージ)→家畜→乳汁→チーズ→ヒトというようにいろいろな場所を循環している野生的な菌も存在しますが、多くの場合、生息環境の特徴に応じて、乳酸菌の種類にもかなりの差異が見られます。例えば、乳に定着するためには乳糖を発酵できる能力を具えることが必須ですし、醤油のもろみで生育するには高濃度の食塩に対する耐性を持たなければなりません。さらに、人々が長い年月をかけて自然界から利用目的に適った優良な菌を選抜・馴致して、発酵食品製造用の種菌(スターター)に使う例もたくさんあります。一例を示しますと、ラクトコックス ラクチス 亜種 ラクチスは作物、生乳、糠味噌などに広く分布し、どちらかといえば野生的な乳酸菌です。一方、同じ菌種の亜種とされるラクトコックス ラクチス 亜種クレモリスはチーズなどの製造にスターターとして用いられますが、自然界にはまったく存在せず、これは乳加工用に人間が育成した乳酸菌の一つと見なすことができます。
 ここで、はっ酵乳、乳酸菌飲料などでプロバイオティクスとして利用される“ビフィズス菌”について触れておきたいと思います。ビフィズス菌というのは、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に分類される細菌の通称です。この菌は多量の乳酸とともに酢酸をつくり、上述の乳酸菌とは発酵形式が異なります。酸素があると生育できない偏性嫌気性菌である点が大きな特徴です。ヒトや家畜の腸管内はきわめて酸素の乏しい条件であるため、ビフィズス菌が優勢となる傾向があります。細胞の形態は桿状ですが、YやVの字のように枝分かれする特徴があるため、多形性桿菌と呼ばれます(図1参照)。このように、ビフィズス菌は分類学的には通常の乳酸菌とはまったく異なる種類の細菌ですが、健康効果を期待してはっ酵乳や乳酸菌飲料などに添加されており、また乳酸生成量の理論値も50%ですので、実用的には広義の乳酸菌に含めて考える場合が多いようです。本稿でも表1には代表的なビフィズス菌の種名も併記してあります(表1参照)。

3.乳酸菌の構造と菌体成分

 細菌はグラム染色と呼ばれる手法によって、グラム陽性菌とグラム陰性菌の2つのグループに大別されます。例えば、乳酸菌やビフィズス菌はグラム陽性菌、大腸菌やサルモネラはグラム陰性菌です。グラム染色性は細菌細胞の基本的な構造の違いを反映しており、乳酸菌の細胞はグラム陽性細菌に共通的な特徴を具えています。
  乳酸菌の細胞の形を決定するのは、外側に存在する細胞壁です。細胞壁は動物細胞には存在せず、植物や細菌に特徴的な成分ですが、植物の細胞壁(セルロースやヘミセルロースなどが主成分)と細菌の細胞壁は成分が異なります。グラム陽性細菌の細胞壁は50nm(1ナノメートルは1000分の1μm)程度の厚い層を形成し、ペプチドグリカン(アミノ糖誘導体の連なった多糖類に比較的短いペプチド鎖が結合した巨大な網目状の不溶性構造)とテイコ酸(グリセロリン酸またはリビトールリン酸の水溶性重合体)を主成分としています(図2参照)。乳酸菌はペプチドグリカンの量が多いのが特徴で、細胞壁の乾燥重量の70%以上を占める菌もあります。そのため細胞が丈夫で、浸透圧の変化に強いとされています。しかも、乳酸菌のペプチドグリカンは幾重にも折りたたまれた構造になっていて、層と層の間に変異原物質などの有害成分を吸着して体外に運び出す可能性も指摘されています。
  図2に示したように、細胞壁の下に細胞膜(原形質膜)があります。細胞膜は菌体細胞質と外界との境界となっています。基本的にはリン脂質分子がつくる流動的な二重層で、厚みは8nm程度の薄い生体膜ですが、全体の50%内外を占めるタンパク質が膜に差し込まれた状態で局在し、ダイナミックな細胞活性の重要な場となっています。乳酸菌は外界のタンパク質を分解して細胞内にり込み、生育に必須なアミノ酸を獲得しなければならない場合がありますが、そのために必要なタンパク質分解酵素やペプチド分解酵素も細胞表層に存在しています。
  動植物(真核生物)の細胞質内にはさまざまな細胞内小器官が収められていますが、乳酸菌をはじめとするグラム陽性細菌の細胞質の構造は比較的単純です。遺伝子を構成する核酸(DNA)は裸のまま細胞の中心に密集し、さらに周辺に向かって拡がっています。また、RNAとタンパク質から成るリボソームは、細胞の成長に必要なタンパク質をつくる器官ですが、細胞質内にごく微小な粒状で分布し(図2参照)、その数が1万以上、重量は細胞の25%を占めるといわれています。乳酸菌は糖類を分解して菌体成分の合成や生育に必要なエネルギーを獲得します。その経路にはいくつかの種類があることは後述しますが、糖代謝に必要な一連の酵素系も細胞質の液相に分布しています。
  乳酸菌を含めて多くの細菌では細胞表層の最外層構造として、規則的に配列された単一のタンパク質または糖タンパク質の層(S層:S‐layer)が観察されます(図2参照)。また、一部の乳酸菌は細胞壁の外側に多量の多糖類を生成する特徴をもっています。これらはスライムとして分泌され、あるいは莢膜を形成します。ロイコノストック メセンテロイデスの一部の菌株が生成するデキストラン(ブドウ糖のポリマー)はよく知られていますが、北欧の伝統的なはっ酵乳のなかには糸を引く粘性のヨーグルトがあり、このような多糖類の保健効果(抗腫瘍性、免疫賦活など)も注目されています。

4.乳酸菌に必要な栄養素と乳中での生育

 私たち人間に必要な炭水化物(糖質)、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル(無機質)を五大栄養素と呼ぶことはご存知の通りです。例えば、タンパク質に含まれる9種類のアミノ酸(バリン、メチオニン、トリプトファン、リジンなど)はどうしても食物から摂取しなければなりません。
  乳酸菌もヒトと同様に、複雑な栄養要求性を示します。この細菌を合成培地に生育させる場合には、発酵可能な糖質とともに、いろいろな種類のアミノ酸、ビタミン、核酸塩基(プリン、ピリミジン)、金属塩などを添加しなければなりません。例えば、乳業用乳酸菌の多くの菌種は共通的にグルタミン酸、バリン、ニコチン酸、パントテン酸、マグネシウム、マンガンなどを必要とし、その他のアミノ酸・ビタミン・無機塩類の要求性は菌種・菌株によって相違すると報告されています。さらに複雑な構造の微量栄養素を必要とする乳酸菌もあります。わが国の乳酸菌測定用の公定培地(BCP加プレートカウント寒天)にはL‐システインとツイーン80が補強されていますが、これはパンテチン(パントテン酸誘導体)やオレイン酸などを要求するヨーグルト用乳酸桿菌も生育できるように配慮したものです。
 ビフィズス菌も、乳酸菌と同様に複雑な栄養要求性を示します。この細菌は偏性嫌気性菌でヒトや動物の腸管で優勢となり、健康上重要な役割を果たします。私たちが日常的に摂取するブドウ糖、ショ糖、麦芽糖などの糖質は、小腸で消化・吸収されて生体のエネルギーとして利用されますが、難消化性オリゴ糖や糖アルコール、水溶性食物繊維などの難消化性糖質は小腸を潜り抜けて大腸に達し、ビフィズス菌をはじめとする腸内細菌を介して発酵・吸収され、利用されます。オリゴ糖は少糖とも呼ばれ、通常2〜10個の単糖(ブドウ糖、果糖、ガラクトースなど)が結合したもので、いろいろな種類があります。この頃よく話題となるプレバイオティクス(その物質を摂取することによって腸内微生物叢が改善されて腸内環境が良好な状態になり、宿主の健康の維持・増進に寄与するもの)の代表として、フラクトオリゴ糖やガラクトオリゴ糖などの難消化性オリゴ糖は腸管内のビフィズス菌の増殖を促進することが知られています。
 牛乳(脱脂乳)における乳酸菌(ラクトコックス ラクチス 亜種 ラクチス)の増殖経過を図3に示しました。培養1時間目から8時間目にかけて、二分裂法、すなわち、20(1)→21(2)→22(4)→23(8)→24(16)倍…と指数関数的に生菌数が増加し、したがって培養時間に対する菌数の対数をプロットすると直線になることが分かります。この図には生菌数の増加に伴う酸度(乳酸%)とpHの変化も示してあります。乳酸菌培養のpHが4.6に近づくとカゼインが沈殿し、乳全体がプリン状に凝固します。酸凝固までに要する時間は接種菌数によって決まります。また、この乳酸菌の乳中での最高菌数は約20億/mlとなっていますが、他の乳酸菌でも牛乳中の最高菌数は1mlあたり数億ないし数十億程度で、さらに培養を続けると、図3には描いてありませんが、死滅期に入って生菌数は減少して行きます。
 乳酸菌の生育環境として考えたとき、牛乳には2つの大きな特徴があります。第1は、約4.5%の糖質が含まれていますが、その99.8%を占める主要な糖質が乳糖(ラクトース)であり、その他の糖質はきわめて微量です。そのため、牛乳で生育する乳酸菌は乳糖を利用できる種類でなければなりません。第2の特徴は、牛乳はカゼインや乳清タンパク質などを豊富に含んでいますが、遊離アミノ酸含量はきわめて低いことです。上述のように、乳酸菌は生育にアミノ酸を必要としますから、牛乳で増殖するためには、細胞外に存在するタンパク質を分解してアミノ酸を獲得しなければなりません。乳酸菌のなかには乳糖を発酵できない菌は多数存在しますし、タンパク分解力が非常に弱い菌も知られています。このような菌を牛乳で培養するには、0.5〜1%程度のブドウ糖と0.3%の酵母エキスを添加すると、よく生育します。また、牛乳中で生育の遅い乳酸菌の生育を促進するために、トマトエキスやニンジンエキスなどを適量添加することも行われています。
(次号に続く)



トップへ戻る 一覧へ戻る