ビフィズス菌の細菌学的特性とその利用

ヒトの腸内には500種類以上、約100兆個の細菌が複雑な生態系を形成し棲みついている。これらの腸内細菌はお互いに共生または拮抗関係を保ちながら、摂取された食物や消化管に分泌された生体成分を栄養素として絶えず増殖しては排泄され、宿主の健康・疾病にきわめて密接に関係している。その中で、腸内フローラの主要構成菌群の一つであるビフィズス菌は、宿主の健康維持に大きく関わっていることが明らかになっており、今日ではプロバイオテイクスとして広く利用されている。

本解説は、ビフィズス菌の細菌学的特性とその利用およびこれまでに解明されたビフィズス菌の生体調節機能について2回にわたり紹介する。

1 ビフィズス菌の歴史

細菌の歴史は非常に古く、35億年前に出現したと言われている1)。細菌を最初に観察したのは17世紀後半に顕微鏡を作成したオランダのレーウエン・フックである。この顕微鏡の発明をきっかけに様々な研究者により次々に病原菌が発見された。さらに、19世紀後半には、パスツールの出現で腸内細菌の分離・探索はますます盛んになり、食細胞の研究でノーベル賞を受賞したメチニコフにより、乳酸菌や発酵乳の健康効果が腸内フローラとの関係から科学的に考察された。

ビフィズス菌は1899年にフランスのパスツール研究所のティシェ(Tissier)によって健康な母乳栄養児の糞便からはじめて分離され、その独特の形態からBacillus bifidus communis(bifidus=枝分かれの意)と命名された。

その後、1924年にOrla-Jensenはビフィズス菌を独立したBifidobacterium属として分類することを提案したが、一般には受け入れられなかった。1933〜1934年、WeissとRettgerは母乳栄養児の糞便から分離したビフィズス菌をLactobacillus acidophiliusの1変種としてLactobacillus属に分類すべきであると結論した。これによってビフィズス菌はLactobacillus bifidusのようにLactobacillusの1菌種として分類された。1958年以降、越智・光岡ら、Rogosaら、Sharpe、ReuterあるいはWernerらによって、ビフィズス菌をLactobacillus属から除外し、Bifidobacterium属とすべきことが提案された。その結果、1974年に出版されたBergey’s Manualの第8版ではビフィズス菌はLactobacillus属から独立し、Bifidobacterium属としてActinomycetaceae科に分類された。現在、Stakebrandtらが1997年に提案した16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく階層分類体系2)により、Actinobacteria網(class)、Bifidobacteriales目(order)、Bifidobacteriaceae科(family)、Bifidobacterium属(genus)に分類されている。

2 ビフィズス菌の特性

Bifidobacteriumは極めて多様な形態を示すグラム陽性の多形性桿菌で、菌体は短桿状、球状、Y字状、V字状、湾曲状、分枝を伴う棍棒状やスパーテル型を呈する(図1)。この形態は培養条件に影響され、初代分離時は分枝状を呈しても、継代培養すると直桿状または湾曲状の桿状菌になる傾向がある。また、培養時には偏性嫌気的条件が必要である。コロニーの表面は円滑で、凸円状に隆起し、周縁円滑、血液を含まない培地では乳白色―白色を呈する。芽胞の形成および抗酸性はなく非運動性である。最適発育温度37〜41℃、一般に最低発育温度は25〜28℃、最高発育温度は43〜46℃。最適発育pHは6.5〜7.0で、pH4.5〜5.0あるいは8.0〜8.5では発育しない。硝酸塩を還元せず、インドール、ゼラチン液化、アルギンの水解性はいずれも陰性、カタラーゼも基本的に陰性である。ブドウ糖をfructose-6-phosphate経路によって発酵し、理論値として酢酸1.5モル:乳酸1モルを生成し、炭酸ガス、酪酸、プロピオン酸などは生成しない。DNAの塩基組成比(G+C含量)は57〜67mol%であり、基準種(type species)はBifidobacterium bifidum(Tisser)Orla-Jensen 1924である。

以上のように、ビフィズス菌は以前にはLactobacillus属(乳酸桿菌)に含められていたことがあるが、乳酸だけではなく酢酸も産生すること、ヘキソースの分解経路やDNA塩基組成に違いがあることから現在は乳酸桿菌とは異なる分類がされている。

図1 Bifidobacterium breveの電顕写真
((株)ヤクルト本社中央研究所提供)

3 ビフィズス菌の種類と分布

細菌の分類は菌形態や糖分解性状を中心とする表現型(phenotype)のみでは十分におこなうことは不可能であり、現在では、遺伝子型(genotype)すなわち、DNA-DNA相同性および16S rRNA遺伝子の塩基配列にもとづく系統解析による分類が主体になっている。現在、29菌種2亜種3生物型のBifidobacteriumが承認されている3)

Bifidobacteriumの各菌種の基準株(type strain)と生息場所は表1に示した4)。ヒト、サル、ニワトリ、ウシ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ミツバチの腸管や糞便、ヒトの膣や口腔、ウシやヒツジのルーメンなどに分布している。ヒトの糞便からはB. adolescentis, B. angulatum, B. bifidum, B. breve, B. catenulatum, B. dentium, B. gallicum, B. longum, B. infantis, B. pseudocatenulatumの10菌種が分離されている。また、発酵乳製品にはヒト腸管由来のB. bifidum, B. breve, B. infantis, B. longumばかりでなくB. animalis(B. lactis)が使用されている。


表1 Bifidobacterium 属の菌種の基準株と生息場所

4 ビフィズス菌利用食品の製造

1948年、ドイツのMayerは、世界で初めてビフィズス菌を乳児用の食品としてビフィズスミルクの製造に用いた。その後、Schuler-Malyoth(1968)がヨーグルト、バター、チーズなどの乳製品にビフィズス菌を応用した論文を発表したことを契機に西ドイツをはじめヨーロッパ諸国でビフィズス菌を利用した乳製品が生産されるようになった。

一方、わが国でビフィズス菌を利用した乳製品が生産されるようになったのは1977年になってからであるが、その後の発展はめざましく、製品の種類や生産量はすでにヨーロッパ諸国を上回っていると考えられる。

近年になって、ビフィズス菌に整腸作用、高血圧降下作用、抗変異原・抗腫瘍作用、血中コレステロール低減作用、免疫調節作用など、老化や発がんの予防にむすびつくような生体調節機能のあることが見出され、そのような機能をもつビフィズス菌を利用した食品について国民の関心が高まっている。そのような期待に応える食品を製造するには、その中に十分な量の生きたビフィズス菌が含まれていなければならない。しかしながら、ビフィズス菌は乳酸菌と異なり、増殖促進物質を添加しない牛乳培地中では増殖しにくく、また、酸素の存在が生残率に影響を与えることもあって、現在市販されている食品の中には生きたビフィズス菌が著しく少ないもの、あるいはほとんど検出されない製品も認められる。

ビフィズス菌を利用した食品を製造するに当たり、とくに留意すべき点は、菌株の選定である5)。食品に利用するビフィズス菌はヒトを分離源とする10菌種の中から、安全性、使用目的、製造条件に適合した菌株を選定すべきである。製造上、牛乳培地中で増殖がすぐれ、継代培養を行っても常に安定した増殖を示し、酸素に対する耐性が高く、耐酸性を示す菌株を選定すべきである。また、香りの成分についても考慮して選定する必要がある。また、様々な保健効果が期待されることから、胃酸ならびに胆汁酸に対する耐性が高く生きたまま大腸まで到達し、これらの生理機能が腸管で発揮できる菌株を選定すべきである。

ビフィズス菌を利用した製品には、液状および糊状発酵乳の他に、粉末および固形食品などがある6)7)。わが国における発酵乳は、厚生労働省の乳等省令により、無脂乳固形分:8.0%以上、乳酸菌または酵母数:1,000万以上(製品1ml当り)、大腸菌群:陰性が定められている。わが国のビフィズス菌発酵乳はこの省令によって規制されることになるので、ビフィズス菌以外に乳酸菌を規格値以上含有しなければならない。そのため、発酵乳に使用する培養乳は、ビフィズス菌および乳酸菌をそれぞれ別培養したものを一定の比率で混合するか、あるいは両者を混合培養して調製される。また、ビフィズス菌の生残性を維持するためにポリエチレン・アルミ・紙の複合容器のように酸素バリアー性の高い容器に充填する必要がある。ビフィズス菌を利用した粉末及び固形食品はビフィズス菌培養菌体を凍結乾燥あるいは真空乾燥し、賦形剤として粉乳類、デキストリン、糖類、デンプン、クエン酸、ビタミンCなどを加えて製造される。水分がビフィズス菌の生残性に大きく影響するので、嗜好性を保ちながらビフィズス菌の死滅をいかに防止するかを製造上で留意することは非常に重要である。

<参考文献>

1) Furnes H., Banerjee N. R., Muehlenbachs K., Staudigel H. & Wit M.: Early life recorded in archean pillow lavas. Science 304, 578-581, 2004
2) Stackebrandt E., Rainey F. A., Ward-rainey N. L.: Proposal for a new hierarchic classification system, Actinobacteria classis nov. Int. J. Syst. Bacteriol., 47, 479-491, 1997
3) Enzeby J. P.: List of bacterial names with standing in nomenclature.
http:/www.bacterio.cict.fr/, 2001
4) 渡辺幸一:ビフィズス菌の種類と菌学的性質 細野明義・岡田早苗・司城不二(編)乳酸菌・ビフィズス菌の取り扱いマニュアル (社)全国農協乳業協会 東京 P69-80 (2003)
5) 馬田三夫:ビフィズス菌の利用食品の製造技術 光岡知足(編)ビフィズス菌の研究(財)日本ビフィズス菌センター 東京 P267-275 (1994)
6) 平松明徳:糊状発酵乳の製造法 光岡知足(編)ビフィズス菌の研究(財)日本ビフィズス菌センター 東京 P275-281 (1994)
7) 石橋憲雄:製品の品質管理 光岡知足(編)ビフィズス菌の研究(財)日本ビフィズス菌センター 東京 P281-286 (1994)



トップへ戻る 一覧へ戻る