プロバイオティクスのウイルス感染症防御作用

はじめに

 プロバイオティクスは抗生物質(アンチバイオティクス)と対比する用語として提唱された。Fullerは「腸内菌叢のバランスを改善することによって、宿主に有益な効果をもたらす生きた微生物」と定義した1)。その後、Salminenらは「宿主の健康とその維持増進に有益な効果をもたらす微生物細胞の調整物または構成物」と死菌を含めた拡大定義をした2)。ここでは、後者の定義のもとに論じることにする。代表的なプロバイオティクスとして乳酸桿菌・ビフィズス菌があり、これらの保健効果については数多く報告された。その中の1つに免疫力を高めウイルス感染を予防する効果がある。
 ウイルス感染とはウイルスが生体内に進入し、生きた細胞に吸着・進入して、自己複製・増殖を行うことである。ウイルスは偏性細胞寄生生体であり、さまざまな種類が存在する。飛沫、食物・飲料水、性行為、輸血などを介してヒトからヒトに感染したり、またヒト以外の動物(蚊やネズミなど)を介して感染する3)。感染による発症は、宿主生体の抵抗力と微生物の状態や毒性などとの複雑な相互関係に依存する。そうした相互関係により、現象的には局所にとどまる局所感染、全身にひろがる全身感染がある。局所感染でも、ウイルスの種類・性状などにより感染部位が異なる。
 現在、各種ウイルス感染を予防・治療する特効薬は、効果や副作用の面で問題が残っている。細菌感染の治療に有効である抗生物質はウイルス感染をより悪化させることが多い。いくつかのウイルス感染症の予防には1769年Jennerが天然痘に対して行った予防接種(ワクチン)の方法が行われ、効果を上げている。しかし、安全性に問題がありまだ開発されていない感染症や、ウイルス粒子自身の変異が多く効果の面で問題を残す感染症などが数多く残っている。このようなことから、ウイルス感染症を予防・治療するには、宿主の免疫力を活性化し高めておくことが必須である。
 ここでは、プロバイオティクスが免疫力を高め、ウイルス感染症(ロタウイルス感染症およびインフルエンザ感染症を中心)を防御することについて解説する。

ヒトに備わる免疫機構

 ヒトや動物には抵抗力にかかわる免疫系が備わっている。ウイルスや病原菌などが体内に侵入したり、がんが出現するとそれらを排除しようとする。このような免疫系には、抗体が関与する液性免疫系とナチュラルキラー(NK)細胞やT細胞が関与する細胞性免疫系がある(図1)。ウイルスや病原菌などの抗原は体内に侵入すると、マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞によりB細胞、T細胞に提示される。B細胞はヘルパーT細胞の助けを受けて抗体を産生する。そして、再度、抗原が侵入した場合にその抗体は抗原を排除する。これが液性免疫反応である。NK細胞やT細胞ががん細胞や感染細胞を非自己と認識し、それを攻撃し排除する。これが細胞性免疫反応である。

図1 免疫系の概略

ロタウイルス性下痢症に対するプロバイオティクスの効果

 ロタウイルスによっておこるロタウイルス感染症は、冬季に発症する感染性胃腸炎で、米のとぎ汁のような白い下痢を起こすために赤痢に対して白痢とも言われている。日本では5歳までに大部分の小児に感染するが、6ヶ月から2歳までの乳幼児にもっとも強い臨床症状(下痢、嘔吐、発熱、脱水など)を引き起こす。栄養状態の悪い発展途上国における場合などは、死の転帰をとることもある。現在、世界で年間数十万人の乳幼児がこの疾病により死亡している。ロタウイルスワクチンは、近年アメリカで開発され、安全性および効能を確認中である。このような状況下でロタウイルス感染症を防御するには、免疫力を高めることが必要である。ロタウイルス感染症防御には腸管内抗体(分泌型IgA)の関与が大きく、この抗体は腸管に侵入したロタウイルスを中和し、ウイルスの腸上皮細胞への吸着を阻止して感染を防御する。そこで、プロバイオティクスのロタウイルス感染症防御効果についてまとめてみた(表1)

1) 動物試験における効果
 2日齢マウスにビフィズス菌(Bifidobacterium (B.)bifidum)を投与すると、ロタウイルス下痢症が遅延することが報告されている。筆者らは、抗体(IgA)を多量に誘導する菌株(B.breve YIT4064)を母親マウスに経口投与すると、ロタウイルス経口免疫後の母乳中抗ロタウイルスIgA抗体が有意に増加することを確認した4)。本菌株は、アジュバント作用があり、ロタウイルス(抗原)に対するIgA抗体産生を増強することが明らかになった。
 さらに、この母乳を摂取した乳仔マウスにロタウイルスを接種すると、下痢発症は有意に減少した。 また、離乳期の豚は感染症による下痢が多発する。そこで、離乳期にビフィズス菌(B. lactis)を投与したところ、抗体産生能の上昇、マクロファージやT細胞の活性化がおこり、ロタウイルス性下痢症が有意に減少した。
 以上の結果から、マウスや豚において、ある種のプロバイオティクスが、ロタウイルスの細胞への吸着を阻止したり、免疫を賦活化し、ロタウイルス性下痢症を予防することが明らかになった。

2) ヒトへの投与試験における効果
 ロタウイルス下痢症と診断された乳幼児へのプロバイオティクス投与効果については、Lactobacillus(L.)rhamnosus GG投与試験が多く、これらは下痢の期間の有意な短縮を報告している。また、本菌株を投与すると、回復時に抗ロタウイルス抗体(IgA)産生細胞が有意に増加することも報告されている。また、B. bifidumS. thermophilusの混合物、L. reuteriL. acidophilusB. infantisの混合物5)L. rhamnosusL. reuteriの混合物などを経口投与すると、下痢の期間が有意に短縮することも報告されている。さらに、マウスの試験で効果の確認されたB. breve YIT4064を乳幼児に投与すると、便中ロタウイルスの検出率(感染率)が減少し、感染が予防できることが明らかになった。以上のように乳幼児へのプロバイオティクス投与はロタウイルス性下痢症を軽減させることが示唆された。

表1 プロバイオティクスの経口投与によるロタウィルス性下痢症防御効果

インフルエンザ感染症に対するプロバイオティクスの効果

 インフルエンザは毎年、冬から春先にかけて流行する急性呼吸器感染症であり、インフルエンザウイルスが鼻咽喉より侵入し上気道で感染した後、下気道に向かって進展し発病する。その症状は一般の風邪と似ているが、40℃近い発熱、頭痛、腰痛、関節炎や倦怠感といった症状が認められる。
 インフルエンザウイルスには、A型、B型及びC型の3グループがあり、A型ウイルスの遺伝子は非常に変化しやすい特徴をもっており、ヒトに何度でも感染する危険性があるので注意を要する。B型ウイルスによる症状は、A型ウイルスによる症状に比べて軽いのが一般的である。さらにC型ウイルスによる症状は、普通の風邪と同じで、しかも遺伝子の変化も起こさないので大きな被害はほとんどでない。
 インフルエンザの予防・治癒には、液性免疫と細胞性免疫が関与するので、これらの免疫力を高めることは重要である。免疫力の低い高齢者や乳幼児などは、合併症、特に肺炎や脳炎を起こし重症化する場合もあり注意を要する。そのため近年では、高齢者や乳幼児にワクチン接種を奨励している。またアマンタジン、オセルタミビル(商品名:タミフル)、ザナミビルなどのインフルエンザ新薬の開発も進められている。その一方でワクチン不足や新薬に対する耐性ウイルスの出現や副作用などの問題もでてきている。このような背景のもとで免疫力を高めるプロバイオティクスの抗インフルエンザ作用についてまとめてみた(表2)。

1)動物試験における効果
 筆者らは、マウスを用いた試験を行った6)。アジュバント作用を有するB. breve YIT4064を経口投与しておくと、インフルエンザウイルス経口免疫後の血中抗インフルエンザウイルスIgG抗体は有意に増加し、下気道感染後の生存率は有意に増加した。
 また、筆者らは細胞性免疫を増強する菌株であるL. casei shirotaのインフルエンザ感染症防御作用を確認した。本菌株をマウスに経鼻投与すると、呼吸器リンパ組織の細胞性免疫力は増加し、経鼻接種したインフルエンザウイルスの鼻腔内増殖は減少し、マウスの生存率は増加した。さらに、感染症のハイリスクグループである高齢者を想定して、老齢マウスに本菌株を経口投与すると、肺のNK活性が上昇し、鼻関連リンパ組織の細胞性免疫が増加した。その後、インフルエンザウイルスを感染させると、インフルエンザウイルスの鼻腔内増殖が減少した7)。同様にハイリスクグループである乳幼児を想定し、乳仔マウスに本菌株を経口投与した結果、インフルエンザウイルス感染後の鼻腔内増殖が減少し、肺のNK活性の上昇及び生存率の増加が見られた。
 以上のように、プロバイオティクスを経鼻投与した場合には直接呼吸器リンパ組織を活性化し、経口投与した場合にはパイエル板細胞の活性化さらにこれに伴う呼吸器リンパ細胞の活性化が生じ、インフルエンザウイルス感染症を防御することが示唆された。

2)ヒトへの投与効果
 動物試験である種のプロバイオティクスにインフルエンザ感染症防御作用が見られたことから、ヒトへの投与試験が行われた。L. rhamnosus GGを健康幼児に経口投与すると、呼吸器疾患児が減少することが報告された。また、健康成人にL. gasseri PA16/8, B. longum SP17/3及びB. bifidum MF20/5の混合物を投与すると、疾病期間が短縮し、呼吸器疾患者(鼻咽頭疾患および気管支疾患者)が減少することが報告された8)。これらの作用機序は明らかでないが、動物試験から推測すると、腸管からのプロバイオティクスの刺激により活性化した腸管免疫細胞が、共通粘膜免疫系により呼吸器免疫系にホーミングしてその場で防御作用を示したと思われる。

表2 プロバイオティクスによる呼吸器感染症(インフルエンザウィルスおよび一般風邪)防御効果

その他のウイルス感染症に対するプロバイオティクスの効果

 ポリオ(急性灰白髄炎)とは、ポリオウイルスの中枢神経感染により生ずる四肢の急性弛緩性麻痺を典型的な症状とする疾患であり、かつては小児に多発したところから小児麻痺とも呼ばれていた。わが国におけるポリオ発生は、過去に大流行があったが、その後のポリオワクチンの一斉投与により激減し、昭和55年を最後に発生していない。しかし、アフリカ地域や東部地中海地域においてはまだ根絶していないので、わが国でもワクチン接種が行われている。
 プロバイオティクスのポリオワクチン増強効果が報告された。成人がL. rhamnosus GGまたはL. acidophilus CRL431を含むヨーグルトを摂取すると、生ポリオワクチンの経口接種後の血清中抗体量および中和抗体量が増加した8)

おわりに

 ある種のプロバイオティクスは、液性免疫または細胞性免疫を増強して、ロタウイルス性下痢症及びインフルエンザウイルス感染症を防御したり、ポリオワクチンのアジュバント作用を示すことが明らかになった。これらの作用は菌種によるのではなく、菌株によることもわかっている。しかし、これら菌株の作用物質はまだ明らかになっていない。現在、各菌株のゲノム解析が盛んに行われており、近い将来、作用物質・構造も明らかになるであろう。また、各種ウイルス感染を防御するのに宿主免疫力が重要であることから、免疫増強・調節作用をもつプロバイオティクスには種々のウイルス感染症防御作用が期待される。これらに対する効果については今後の課題であろう。

<引用文献>

1) Fuller R. Probiotics in man and animals. J. appl. Bacteriol. 66: 365-378 (1989)
2) Salminen S. et al. Probiotics : how should they be defined? Treid Food Sci. Technol. 10: 107-110 (1999)
3) 皆川洋子, 柳雄介: ウイルスの種類と感染症. 吉開泰信(編): ウイルス・細菌と感染症がわかる, 羊土社, 2004; p.36-48.
4) Yasui H, Kiyoshima J, Ushijima H. Passive protection against rotavirus-induced diarrhea of mouse pups born to nursed by dams fed Bifidobacterium breve YIT4064. J Infect Dis. 172: 403-409 (1995)
5) Rosenfeldt V, Michaelsen KF, Jakobsen M, et al. Effect of probiotic Lactobacillus strains on acute diarrhea in a cohort of nonhospitalized children attending day-care centers. Pediatr Infect Dis J. 21: 417-419 (2002)
6) Yasui H, Kiyoshima J, Hori T, et al. Protection against influenza virus infection of mice fed Bifidobacterium breve YIT4064. Clin Diagn Lab Immunol. 6: 186-192 (1999)
7) Hori T, Kiyoshima J, Shida K, et al. Augmentation of cellular immunity and reduction of influenza virus titer in aged mice fed Lactobacillus casei Shirota. Clin Diagn Lab Immunol. 9: 105-109 (2002)
8) de Vrese M, Winkler P, Rautenberg P, et al. Effect of Lactobacillus gasseri PA 16/8, Bifidobacterium longum SP 07/3, B. bifidum MF 20/5 on common cold episodes: A double blind, randomized, controlled trial. Clin Nutr. 24: 481-491 (2005)



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